「わっ、ちょっと、武田先輩、やめてください!」

 先輩の手を押し除けようとするが力が強くて不可能だ。

「つーか、矢野の髪、やっわらか!」
「先輩、髪がボサボサになります……!」
「少しくらいいーだろー」

 武田先輩は、髪の毛の質感を確かめるように、ひと束ひと束摘む。
 力では勝てないと分かり、終わるまで我慢していると、今度は「お前、肌もきれーだな」と俺の頬を指でふにふにしだす。

「ちょっと、武田先輩、何してるんですか。やめてください!」
「だってお前の肌すげー綺麗じゃん。もうちょっと触らせて」
「やめてください。セクハラで訴えますよ!」
「はあ? そんなことしてねーだろ」

 なかなかやめてくれないものだから、痺れを切らせた俺は次の行動に出る。

「してます、今。訴えたら俺、勝てますよ。なんせ、証言してくれる人がたくさんいますから」

 俺が言うと、「はあ?」と言いながらも武田先輩はあたりを見回す。

「武田、後輩にセクハラしないでくれる?」

 と、会長が。

「タケ、早く矢野くんから離れろ」

 と、夏樹先輩が。

「あ、俺、動画でも撮っておきましょうか?」

 と、もう一人の書記の千葉くんが言う。

「ったく。分かったよ。離れればいいんだろ」

 と、武田先輩ひ渋々手を離してくれた。

 やっと解放された俺は安堵する。

 みんな俺のことを守ってくれただけなのに、どうして夏樹先輩の言葉にだけドキッとしてしまったんだろう。

「でもさあ、まじてお前肌綺麗すぎ。それにいつも言ってるけど、やっぱ可愛い顔してるよな」