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十月なのにまだ暑い。開けっ放しにしている窓からは生温い風しか入ってこなかった。そんなある日の放課後。
「なんで俺、こんな面倒なことやってんだろー」
武田先輩が、椅子に全体重をかけて背もたれながら文句を言う。
「なんでって自分で副会長に立候補したからじゃないの」
「ちっげーよ! クラスのやつにもてはやされただけだよ! 俺は生徒会になんて入るつもりなかったし」
呆れたような顔をしている会長と、いつも騒がしい武田先輩のやりとりを毎日のように見ている気がする。そう思っているのは、きっと俺だけじゃない。
その証拠に、夏樹先輩は「またやってる」と頬杖をつきながら苦笑いしているし、俺の隣に座っている同級生は笑っている。
「武田、生徒会に入ってもう二年目なんだからいい加減認めなよ。ほんとはこういう作業も得意でしょ」
「全然だっつーの! 俺は手先が不器用だってこと山崎が一番知ってんだろ!」
武田先輩は、かなりの面倒くさがりだ。おまけにちょっと口が悪い。
「こんなちまちました作業よりも外で走り回りてー」
と、プリントを宙に放り投げて椅子の後ろにギイギイと体重をかける。
「ちょっと武田。それ大事なプリントだから」
それを会長が拾い集める。
「だって外、見てみろよー。サッカー部めちゃくちゃ元気じゃん。俺もサッカーやりてえ……」
武田先輩は、文化系より体育会系だ。だからきっと身体が疼くのかもしれない。
「じゃあ部活に入ればよかったのに」
「部活で学校生活縛られるのもちょっとなぁと思うじゃん。それより自由に伸び伸びと楽しめた方がいいっつーか。それにほら、俺、団体行動とか不得意じゃん?」
「ああ、うん。そうだね」
「ちょ、マジに受けとんなよ! そこはふつー否定するだろっ!」
会長に肯定されたのがショックだったのか、焦って武田先輩は立ち上がる。
すると、そう言われた会長は「えー、もう面倒くさいなぁ」と言いながら苦笑い。
武田先輩の接し方には一番会長が慣れている。きっと一枚も二枚も会長の方が上だ。
「それより武田、プリント拾ってよ」
会長の言葉には渋々従う。その証拠に「ちえー」と言いながらもプリントを拾う。
なんだかんだ言って会長のことを信頼している。だからこうやって素直に言うことを聞くんだろう。
「武田先輩、こっちにも飛んでましたよ」
足元に落ちたプリントを拾って先輩に手渡す。
「おーサンキュー」
ニカッと笑いながら武田先輩は俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。