「何が順調?」
「夏樹先輩に気に入られてそうじゃん」
「それは生徒会メンバーだからよくしてもらってはいるけど、それ以上でもそれ以下でもないって!」
「ほんとに?」
「ほんとだから!」
「でもさ、夏樹先輩に前言われてたじゃん。女装するなら俺の前だけにしてって」
「だ、だからそれはべつに深い意味はなくて……てか、ここ教室だから!」

 慌てて俺が注意をすると、鳥羽は「あ、ごめん。うっかり」と言って口元を抑えた。

 夏樹先輩や武田先輩にたまに〝可愛い〟とか言われることもあるけれど、そこまで気にならなくなった。というか、夏樹先輩に言われるとなんか調子が狂うっていうか。なんでだろう。

「とりあえず黒板に種目を書いたので、出たいところに自分の名前書いていってくれー」

 他のことを考えていると、あっという間に黒板に種目名が書かれていた。
 委員長の言葉でクラスメイトは一斉に立ち上がる。

「矢野、どうする?」
「うーん……今は人多いからもう少し減ってから行くよ」
「じゃー俺も」
「え、いいの? やりたくない種目残るかもしれないよ」
「それはそれでいいと思ってる。体育祭、楽しみたいし」

 鳥羽は、意外と体育会系っぽい。
 俺は、どちらかといえば目立ちたくないし、できることなら汗だってかきたくない。運動なんて大の苦手だし。

「あ、そろそろ行けるよ」
「うん、ほんとだ」

 目立ちたがりタイプのザ・体育会系男子は、長距離や借り物競走など率先して記入していた。

 残っているのは、玉入れと短距離走とパン食い競走と綱引き……一番体力を使わないのは、やっぱりパン食い競走かな。

「えーっと、変更する必要がないのは玉入れと長距離走だけど……他の種目、人数足りなかったりするなぁ。二種目やってもいいって人いる?」

 委員長の言葉に、「じゃあ俺二つやってもいいよ!」と次々と手が上がる。

 そしてあっという間に種目決めは終了した。

「なんか体育祭ってわくわくするよなー!」
「分かる分かる。しかも男だけだと逆に本気になるもんな!」
「絶対負けられないよな!」

 HRの時間が余ったため、会話はよからぬ方へ進んでゆく。みんな相当気合いが入っているみたいだ。

「よーし! 今年は一年が優勝するぞ!」

 うわー、かなり盛り上がってる。

 それに便乗するように立ち上がる男子。

「だってさ、矢野」
「……なんで俺を見るの」
「いやー、なんとなく?」

 教室の片隅でひ弱な俺は、プレッシャーを抱えていた。

 体育祭で絶対にミスできない。

 ──ああほんとに憂鬱だ。