女装した俺が、先輩に気に入られた件について。


「それくらい矢野くんがハンバーグ食べてる姿が可愛くてさぁ」

 と、なかなか終わりそうになくて。

「それにあの女子の話聞いた? 俺たち周りから見たら恋人に見えるんだって」

 その言葉を聞いた瞬間、ビビッとアンテナが立ち上がり、やばいと思った。

「ちょっ…先輩、ボリューム落としてください……っ」

 いくら俺たちが男女に見えるからって言ったって、どこで誰が俺たちを見ているか分からない。

「だってさ、あの女子たちも羨ましがってたよ。あーんされててラブラブだねーって。矢野くんがよっぽど可愛く見えたんだろうね」

 おまけに〝可愛い〟を連発するからさすがの俺も羞恥心に駆られて、

「……先輩、もう勘弁してください」

 俺の方が先に白旗を上げる。

 今までだって可愛いと言われたことは何度もあった。男子にも女子にも。嫌いな言葉の代表となるほどに〝可愛い〟って言われるのが嫌だった。

 それなのに夏樹先輩から可愛いと言われると、なぜこんなにも恥ずかしくなってしまうのだろうか。

「矢野くん、顔真っ赤だよ」
「た、ただ暑いだけ、です…っ」
「たしかに今日暑いもんね」

 どんなに言葉を誤魔化しても先輩には気づかれている気がして。俺が言葉を言うたびに墓穴を掘っているような感じさえした。

「矢野くんさぁ、その服もお姉さんのお下がり?」

 しばらくして、先輩がそんなことを聞いた。

「あ、はいそうです」
「自分で買いに行ったりとかはしないんだね」
「俺、ファッションセンスがあまりなくて、それに女子の洋服とかも種類多過ぎてよく分からないですし。そもそも女装なんで姉のお下がりで十分です」

 矢野くん呼びに戻っているけれど、周りにそこまで人はいないため指摘するのをやめた。
 だって俺も、先輩に〝朝陽ちゃん〟って呼ばれるの慣れないし、むしろ違和感がある。

「ふーん、そっか。てか、矢野くんのお姉さんっていくつ?」
「三つ離れてるので今十九歳です。夏樹先輩は兄弟いるんですか?」
「ううん、俺一人っ子だよ」
「え、そうなんですか。なんか意外です」

 それからは他愛もない会話を続けながら街をプラプラ歩いた。

 あっという間に時間は過ぎて十五時になる。さすがにそろそろ帰らないと母さんに女装姿を見られてしまう。それは嫌だったので、理由を説明して帰れるようにする。

 先に駅のホームに降りた俺は、振り返って先輩を見つめる。

「あ、そういえば俺、先輩に聞くのすっかり忘れてたんですけど」
「何?」
「先輩にバレたとき、俺女装してたはずなのにどうしてあれが俺だって気づいたんですか?」

 そう尋ねてみれば、「あー……」と何とも歯切れの悪い返事をして目線を逸らされる。

「まあ、なんとなく? あれ、矢野くんかもって思って名前呼んだら立ち止まって俺の名前も呼んだし」
「あ、なるほど」

 確かにあのとき俺も先輩の名前呼んだっけ。

 でも、なんかまだ引っかかる。そう思っていたら、

「今日は連絡くれてありがとう。休日に矢野くんと会えると思ってなかったから嬉しかった。次は学校で会おうね、〝朝陽ちゃん〟」

 何の前触れもなく、名前呼びを再開するから不意打ちを食らった俺は、

「ちょ、先輩……!」

 動揺して声を上げるが、先輩は楽しそうに笑っていた。
 アナウンスが流れて、ドアが閉まると、先輩は俺に手を振る。
 それに俺も手を振り返して、先輩を見送った。

「ほんと、自由な人だなあ……」

 ふわりと夏の風が吹き、俺の髪(ウィッグ)が横へ攫われる。

「……ん?」

 〝休日に矢野くんと会えると思ってなかったから嬉しかった〟
 それって、なんか休日に俺と会えたことが嬉しかったみたいな言い方……

 ──朝陽ちゃん。

 しかも、今俺のこと名前で呼んだ。
 俺のことを名前で呼ぶ先輩の声はとても優しくて、愛おしさすら含まれているように感じて。

「……なんで俺、先輩にこんなにドキドキしてるんだ」

 しばらくその場にしゃがみ込んだ。

 ◇

 ある日の一限目、体育祭の種目を決める話し合いが開かれる。

「もうすぐ体育祭があるので出場する種目を決めていきたいと思います。まずは種目書くからちょっと時間ちょうだい」

 そう言うと、委員長はチョークを持つ。その傍らで副委員長は紙を見ながら種目名を読んでいた。
 クラスメイトは、待ち時間をタダでは過ごさないらしい。その証拠にガヤガヤと話しだす。

「もうそんな時期なんだ。早いよね」

 と、鳥羽が隣から声をかけてくる。

「あー、うん、たしかに。入学して今日まであっという間だった気がする」

 入学して半年以上が過ぎた。
 初めは、またからかわれたりするんじゃないかって緊張したけれど、想像していたよりもからかわれることは少なかった。

「俺さー、男子校に入ったのは失敗だったかなって思ってたんだけど、なんだかんだ楽しいよね」
「そうだね。男子だけだから気にせずふざけられるっていうか、クラスにもふざけてる人多いよね」
「まあな。女子がいたらカッコつけたりするけど、そういう必要がないっていうか、カッコ悪いところさらけ出せるっていうか、気が楽ではあるよな」

 確かにそうかもしれない。共学校だと当然だけれど女子もいて、誰がかっこいいとか誰が好きとかの話題が上がっていた。だからこそ、かっこいい部類に入らない俺は違う意味で目立ってしまったのかもしれない。

「ただ、女子がいないから癒しがないっていうか、恋愛的なことがほとんどないから物足りないってのもあるよな」
「鳥羽は恋愛したいって思う?」
「そりゃあね。一度くらいは大恋愛してみたいって思うよ」

 そう言ったあと、俺を見て、鳥羽は「その点、矢野は順調なんじゃないの」と呟いた。
「何が順調?」
「夏樹先輩に気に入られてそうじゃん」
「それは生徒会メンバーだからよくしてもらってはいるけど、それ以上でもそれ以下でもないって!」
「ほんとに?」
「ほんとだから!」
「でもさ、夏樹先輩に前言われてたじゃん。女装するなら俺の前だけにしてって」
「だ、だからそれはべつに深い意味はなくて……てか、ここ教室だから!」

 慌てて俺が注意をすると、鳥羽は「あ、ごめん。うっかり」と言って口元を抑えた。

 夏樹先輩や武田先輩にたまに〝可愛い〟とか言われることもあるけれど、そこまで気にならなくなった。というか、夏樹先輩に言われるとなんか調子が狂うっていうか。なんでだろう。

「とりあえず黒板に種目を書いたので、出たいところに自分の名前書いていってくれー」

 他のことを考えていると、あっという間に黒板に種目名が書かれていた。
 委員長の言葉でクラスメイトは一斉に立ち上がる。

「矢野、どうする?」
「うーん……今は人多いからもう少し減ってから行くよ」
「じゃー俺も」
「え、いいの? やりたくない種目残るかもしれないよ」
「それはそれでいいと思ってる。体育祭、楽しみたいし」

 鳥羽は、意外と体育会系っぽい。
 俺は、どちらかといえば目立ちたくないし、できることなら汗だってかきたくない。運動なんて大の苦手だし。

「あ、そろそろ行けるよ」
「うん、ほんとだ」

 目立ちたがりタイプのザ・体育会系男子は、長距離や借り物競走など率先して記入していた。

 残っているのは、玉入れと短距離走とパン食い競走と綱引き……一番体力を使わないのは、やっぱりパン食い競走かな。

「えーっと、変更する必要がないのは玉入れと長距離走だけど……他の種目、人数足りなかったりするなぁ。二種目やってもいいって人いる?」

 委員長の言葉に、「じゃあ俺二つやってもいいよ!」と次々と手が上がる。

 そしてあっという間に種目決めは終了した。

「なんか体育祭ってわくわくするよなー!」
「分かる分かる。しかも男だけだと逆に本気になるもんな!」
「絶対負けられないよな!」

 HRの時間が余ったため、会話はよからぬ方へ進んでゆく。みんな相当気合いが入っているみたいだ。

「よーし! 今年は一年が優勝するぞ!」

 うわー、かなり盛り上がってる。

 それに便乗するように立ち上がる男子。

「だってさ、矢野」
「……なんで俺を見るの」
「いやー、なんとなく?」

 教室の片隅でひ弱な俺は、プレッシャーを抱えていた。

 体育祭で絶対にミスできない。

 ──ああほんとに憂鬱だ。

 ◇

 十月なのにまだ暑い。開けっ放しにしている窓からは生温い風しか入ってこなかった。そんなある日の放課後。

「なんで俺、こんな面倒なことやってんだろー」

 武田先輩が、椅子に全体重をかけて背もたれながら文句を言う。

「なんでって自分で副会長に立候補したからじゃないの」
「ちっげーよ! クラスのやつにもてはやされただけだよ! 俺は生徒会になんて入るつもりなかったし」

 呆れたような顔をしている会長と、いつも騒がしい武田先輩のやりとりを毎日のように見ている気がする。そう思っているのは、きっと俺だけじゃない。
 その証拠に、夏樹先輩は「またやってる」と頬杖をつきながら苦笑いしているし、俺の隣に座っている同級生は笑っている。

「武田、生徒会に入ってもう二年目なんだからいい加減認めなよ。ほんとはこういう作業も得意でしょ」
「全然だっつーの! 俺は手先が不器用だってこと山崎が一番知ってんだろ!」

 武田先輩は、かなりの面倒くさがりだ。おまけにちょっと口が悪い。

「こんなちまちました作業よりも外で走り回りてー」

 と、プリントを宙に放り投げて椅子の後ろにギイギイと体重をかける。

「ちょっと武田。それ大事なプリントだから」

 それを会長が拾い集める。

「だって外、見てみろよー。サッカー部めちゃくちゃ元気じゃん。俺もサッカーやりてえ……」

 武田先輩は、文化系より体育会系だ。だからきっと身体が疼くのかもしれない。

「じゃあ部活に入ればよかったのに」
「部活で学校生活縛られるのもちょっとなぁと思うじゃん。それより自由に伸び伸びと楽しめた方がいいっつーか。それにほら、俺、団体行動とか不得意じゃん?」
「ああ、うん。そうだね」
「ちょ、マジに受けとんなよ! そこはふつー否定するだろっ!」

 会長に肯定されたのがショックだったのか、焦って武田先輩は立ち上がる。
 すると、そう言われた会長は「えー、もう面倒くさいなぁ」と言いながら苦笑い。

 武田先輩の接し方には一番会長が慣れている。きっと一枚も二枚も会長の方が上だ。

「それより武田、プリント拾ってよ」

 会長の言葉には渋々従う。その証拠に「ちえー」と言いながらもプリントを拾う。

 なんだかんだ言って会長のことを信頼している。だからこうやって素直に言うことを聞くんだろう。

「武田先輩、こっちにも飛んでましたよ」

 足元に落ちたプリントを拾って先輩に手渡す。

「おーサンキュー」

 ニカッと笑いながら武田先輩は俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「わっ、ちょっと、武田先輩、やめてください!」

 先輩の手を押し除けようとするが力が強くて不可能だ。

「つーか、矢野の髪、やっわらか!」
「先輩、髪がボサボサになります……!」
「少しくらいいーだろー」

 武田先輩は、髪の毛の質感を確かめるように、ひと束ひと束摘む。
 力では勝てないと分かり、終わるまで我慢していると、今度は「お前、肌もきれーだな」と俺の頬を指でふにふにしだす。

「ちょっと、武田先輩、何してるんですか。やめてください!」
「だってお前の肌すげー綺麗じゃん。もうちょっと触らせて」
「やめてください。セクハラで訴えますよ!」
「はあ? そんなことしてねーだろ」

 なかなかやめてくれないものだから、痺れを切らせた俺は次の行動に出る。

「してます、今。訴えたら俺、勝てますよ。なんせ、証言してくれる人がたくさんいますから」

 俺が言うと、「はあ?」と言いながらも武田先輩はあたりを見回す。

「武田、後輩にセクハラしないでくれる?」

 と、会長が。

「タケ、早く矢野くんから離れろ」

 と、夏樹先輩が。

「あ、俺、動画でも撮っておきましょうか?」

 と、もう一人の書記の千葉くんが言う。

「ったく。分かったよ。離れればいいんだろ」

 と、武田先輩ひ渋々手を離してくれた。

 やっと解放された俺は安堵する。

 みんな俺のことを守ってくれただけなのに、どうして夏樹先輩の言葉にだけドキッとしてしまったんだろう。

「でもさあ、まじてお前肌綺麗すぎ。それにいつも言ってるけど、やっぱ可愛い顔してるよな」

「そういうことを真剣に言うのやめてください……っ!!」
「えー、なんで。可愛いのに」
「俺は男です! 武田先輩に言われても嬉しくありません!」
「じゃあ俺以外のやつに言われたら嬉しいのかよ! 夏樹とか!」

 えっ、夏樹先輩に言われたら……?

 確か、前に可愛いとか言われたことあったような。そのときは嬉し……

「え、否定しないってことはそうなのか?」
「あ、いや、べつにそういうわけじゃないです! そ、そもそも先輩はタイプじゃないので勘弁してください!」

 慌てて誤魔化すと、「はあ?」と武田先輩はムキになって。

「なんで俺が振られる形になってんだよ。矢野、このやろー!」

 と、肩を組まれて、髪をボサボサにされる。

 なかなか会話は収まりそうになかったが、拍手が数回上がったと同時に、

「はいはい、二人ともそこまでにして。まずはやること済ましちゃおうよ。早く済んだら武田の好きなアイス奢ってあげるよ」

 会長の一言により、武田先輩は「仕方ねえなあ」と静かになる。

 俺はボサボサになった髪の毛を整えながら、さっきの会話を思い出す。
 ──『俺以外のやつに言われたら嬉しいのかよ! 夏樹とか!』
 そう言われたことに対して、少し迷った自分がいた。
 俺、夏樹先輩に言われるのは嬉しいと思ってるってことか?

 ……なんで?

「どうかした?」

 隣に座っていた千葉くんに声をかけられる。

「あ、うん、何でもない!」

 と笑って誤魔化した。

 その直後、「来週体育祭だよな! みんな何すんの?」と武田先輩がまた話し出した。
 それを見て会長はまた呆れたように苦笑いしていたが、その会話に付き合うことにしたらしい。

「俺は、玉入れと短距離かな」
「ふーん。じゃあ夏樹は?」
「俺は、借り物競走」
「えっ、あの何を書かれるか分からない難題だらけのやつ? よくする気になったなぁ」
「居眠りしてたらもう決まってたんだよ」
「ああ、だよなぁ。そんな面倒なのわざわざやらねーもんな」

 ……夏樹先輩、借り物競争なんだ。

 借り物競走のお題は、男子校ではおもしろおかしく書くらしいけれど、一体どんなことが書かれているんだろう。

「じゃー、矢野は?」

 と、武田先輩が俺に尋ねてくる。

「あっ、俺はパン食い競走です」
「えーまた意外なの選んだな。てか、身長届くか?」
「何言ってるんですか! 届きますよ!」

 生徒会に入っている生徒は競技をするだけじゃない。定期的に校内を見回ったり、備品確認をしたり、常に作業が山積みだ。

「学年対抗だけど、今年は絶対二年が勝つからな!」

 武田先輩は相当やる気みたいだ。

「俺たち一年だって負けませんから!」

 と、千葉くんが反論すると、

「じゃあ勝負だな!」
「分かりました。受けて立ちましょう!」
「それなら賭けしようぜ。負けた方がピザ奢るとか」
「なんですかそれ。仮に俺らが負けたとして、後輩にピザ奢らせるんですか!」
「まだ負けと決まったわけじゃねえだろ? それとももう負け確定か」
「そんなわけありません! その勝負乗りました!」

 あれよあれよと話が進んでいった。

 それを聞いていた俺は思わず苦笑い。

 体格も力も違う二年生に勝てるはずがないんじゃ、と負け越しになっていると、

「……そーいえば夏樹さぁ、この前女といた?」

 突拍子もない言葉が現れて、夏樹先輩は「……は?」と困惑する。

「いやー、なんか俺のクラスのやつがお前のこと駅前で見かけたって言ったんだけど、そんとき女といたって聞いたから」

 固まる夏樹先輩に、武田先輩が言う。

 ……ん? 駅前? それってもしかして──

「なに。夏樹、彼女いたの?」

 会長もびっくりした様子で尋ねる。

「いや、あれは……」

 まさか先輩、俺のことを言ったりしないよね? いや、その前に俺、周りから女の子だと思われてるってことだよな。つまりそれって、デート……

 ──ぶわっと顔が熱くなる。

 その瞬間、「ふはっ」と誰かの笑い声が漏れる。

 見なくても分かる。夏樹先輩の声だ。

「夏樹?」

 ダメだ。今、先輩の方見れない。

「いや、彼女じゃないよ」
「じゃあなんで一緒にいるんだよ」

「好きな子だから」

 夏樹先輩が言葉を紡いだ瞬間、俺は一瞬耳を疑った。

「いやいや、夏樹に好きなやつ? 嘘つけ。友達とかじゃねえの」

 俺と同じように疑う武田先輩。

 何て答えるのか気になっていると、先輩はこう言った。

「今はまだ友達だけど、俺にとっては好きな子だよ」

 その言葉を聞いて、俺は弾かれたように顔を上げた。

 瞬間、真っ直ぐに向けられた視線とぶつかり、ドキッとする。

「まあ、いつか付き合えたらって思ってる」

 本当か嘘か分からない。

 この空気を和ますために先輩が冗談を言っているだけかもしれない。

 それなのになぜ、こんなにドキドキしてしまうんだろう。

「俺にも会わせろよ!」
「なんで。やだよ」
「じゃー、あんな可愛い子とどーやって知り合ったのかだけでも教えてくれよ!」
「うーん、それも無理」
「なんでだよ!」
「なーんでも」

 夏樹先輩が頑なに口を閉ざしていると、「せっかく女子と出会える方法聞けると思ったのに」と、武田先輩はぐでーんと机に項垂れる。

「出会い方なら近くに共学校があるでしょ」

 と、会長が言う。

「そーだけど、どうやって知り合うんだよ! 知り合いなんかいないしなぁ」
「俺、そこに知り合いいるよ」
「えっ……まじで?!」
「うん、ほんとに」
「じゃあ今すぐにでも紹介してくれ!」

 武田先輩ひ食い入るように会長席に詰め寄ると、「どうしようかなぁ」と会長は笑う。

「頼むよ、山崎!」
「じゃあ残ってる雑務、まじめにこなしたら考えてあげてもいいよ」

 会長はニコリと微笑んでいた。

 そんなやりとりをしているのが全然気にならないくらい、俺はドキドキが鳴り止まなかった。