「それくらい矢野くんがハンバーグ食べてる姿が可愛くてさぁ」
と、なかなか終わりそうになくて。
「それにあの女子の話聞いた? 俺たち周りから見たら恋人に見えるんだって」
その言葉を聞いた瞬間、ビビッとアンテナが立ち上がり、やばいと思った。
「ちょっ…先輩、ボリューム落としてください……っ」
いくら俺たちが男女に見えるからって言ったって、どこで誰が俺たちを見ているか分からない。
「だってさ、あの女子たちも羨ましがってたよ。あーんされててラブラブだねーって。矢野くんがよっぽど可愛く見えたんだろうね」
おまけに〝可愛い〟を連発するからさすがの俺も羞恥心に駆られて、
「……先輩、もう勘弁してください」
俺の方が先に白旗を上げる。
今までだって可愛いと言われたことは何度もあった。男子にも女子にも。嫌いな言葉の代表となるほどに〝可愛い〟って言われるのが嫌だった。
それなのに夏樹先輩から可愛いと言われると、なぜこんなにも恥ずかしくなってしまうのだろうか。
「矢野くん、顔真っ赤だよ」
「た、ただ暑いだけ、です…っ」
「たしかに今日暑いもんね」
どんなに言葉を誤魔化しても先輩には気づかれている気がして。俺が言葉を言うたびに墓穴を掘っているような感じさえした。
「矢野くんさぁ、その服もお姉さんのお下がり?」
しばらくして、先輩がそんなことを聞いた。
「あ、はいそうです」
「自分で買いに行ったりとかはしないんだね」
「俺、ファッションセンスがあまりなくて、それに女子の洋服とかも種類多過ぎてよく分からないですし。そもそも女装なんで姉のお下がりで十分です」