「じゃあ名前呼んだ罰としてこれひと口食べる?」
先輩が頼んだのは、いちごソースのかかったふわふわパンケーキ。
「……どういう罰なんですか」
俺が文句をついてみるが、
「まあまあ、いーからいーから」
と、他人事のように軽い返事をしたあと、フォークで刺したひと口分を俺に向ける。
「……な、なんですか」
ギョッとして、声が上擦ってしまう。
「あーんしてあげようと思って」
「……遠慮しておきます」
「いーからいーから」
なにがいいからなのかさっぱり分からない。
この状況に困惑して、固まっていると、
「ほら早く、いちごソース溢れる!」
なんて先輩が急かして、さらにグイッと口にフォークを寄せるから食べないわけにはいかなくなって、パクリッとひと口食べる。
「どう?」
少しわくわくしながら俺を見つめる先輩。
「……おいしい、です」
悔しいけれど、いちごソースのかかったパンケーキはめちゃくちゃおいしかった。
「うん、よかった」
先輩は目を細めて微笑む。
その表情に、思わず胸がキュンとする。
「ねぇねぇ今の見たぁ? 彼氏さん、彼女にあーんしてたよ!」
「見た見た! めーっちゃラブラブだねぇ!」
不意をつくように聞こえた女子の団体の弾む会話が俺の耳に流れてくる。
この周りに男女でいるのは俺たちくらい。と言っても実際俺は男なんだけど、女装をしているから周りからは女子に見えるらしい。
……うわー、なんか恥ずかしい……。
顔を見られないように、少しだけ俯いた。
「や……朝陽ちゃんどうしたの?」
俺を心配したのか、先輩に声をかけられる。
「あ、いえ、別になにも……」
とにかくここは話題を変えよう。
「せ、先輩は、甘党なんですか?」
「あーうん、かなりね。だから甘いものには目がなくてさ。もちろん辛いものも好きだけど」
と、その合間にひと口食べる。おいしそうに頬張ったあと、
「ここ、気になってたんだけど女子が多くて俺一人じゃ行けなくてさぁ」
「へぇ、そうだったんです…ね……」
納得しそうになった俺の頭の中のレーダーがピコンッと何かを察知して、急速に手繰り寄せられる記憶。