◇
『矢野ってすっげぇ可愛い顔してるよな!』
『矢野くんって女の子より女の子みたい』
……あー、もう嫌だ。耳を塞ぎたくなったそのとき、
──ピピピッ…
つんざくようなうるさい音で、俺は目が覚めた。
カーテンの隙間から溢れる光が眩しくて、思わず目を細める。
「なんだ、今の夢か……」
むくりと起き上がり、スマホのアラームを消す。なんとも目覚めの悪い朝。
「はぁ……嫌な夢見た……」
最近はあまり見なかったのに、久しぶりに過去の苦い記憶を見た。
スマホの時間を確認すると、六時過ぎ。ここから駅まで十分もあれば着くから余裕だ。
「……あれ、今日って……」
目を凝らしてスマホに表示されている日付を確認すると、今日は土曜日。学校が休みの日だ。
なーんだ。今日、学校じゃないじゃん。昨日、アラーム解除するの忘れてた。休みの日は八時まで寝ようって決めてたのに。
よし、二度寝しよう。そう思って、また布団に潜り込む。
「ああっ、だめだ! 寝れない!」
さっきの夢が原因で目は冴えて、二度寝どころではない。
「……とりあえず起きるかぁ」
どうせベッドでゴロゴロしたって嫌なこと思い出すだけだ。顔洗ってさっぱりして、ご飯でも食べよう。
ふあーあ。あくびをひとつしたあと、重たい身体を無理やり動かした。
「あら、朝陽。おはよう。今日は早かったのね」
顔を洗ってリビングに向かうと、休日なのにいつもの時間に起きた俺に母さんは驚いた。
「アラーム間違えてセットしちゃったみたいで」
「そうだったの。でも、休みの日も早起きするといいことあるわよ、きっと」
「……そうだといいけど」
食パンをトースターで焼いて朝食を準備する俺は、このあとの予定を頭の中で考えた。
家にいてもゴロゴロするだけだし、図書館にでも行ってみる? いやでも、そんな気分にもなれないし……