「このあとお友達とランチに行って来るんだけど」
「あー、うん分かった」
「お昼ご飯大丈夫そう? 何か作ろうか?」
「適当に食べるから大丈夫だよ」

 母さんはパートで働いている。基本、土日は休みの日が多い。父さんは、今単身赴任中で家にいない。

 軽く朝食を済ませてから部屋に戻る。予習でもしようと教科書とノートを広げてみるが、全然集中できなくて放り投げた。

「朝陽、お母さん行ってくるね」
「あー、うん気をつけて」

 玄関に向かった音が聞こえたあと、バタンッとドアが閉まった音がした。

「あーあ……今日、どうしよう……」

 キャスター付きの椅子で移動して、カーテンを開けると、そこは青空が広がっていた。

 いい天気だなぁ。こんな日にずっと家の中でくすぶっているのはもったいないなー。

 ──矢野ってすっげぇ可愛い顔してるよな!

 頭の中で、また嫌な言葉がリピートされる。

「あーもうっ、いい加減忘れたいのに……!」

 自分に自信がもてなくて、何をやるにも後ろ向き。
 けれど、女装をしているときだけは自分に自信が持てる。

「久しぶりに女装……してみようかなぁ」

 クローゼットに隠すようにしまってある姉からもらった女物の洋服。それほど多くはないが、クローゼットの半分を占めていた。
 ウィッグはロングの一種類のみ。特にこだわっているほど女装に手をかけているわけではないため、ロングをその日の気分で下ろしたままか結んだりしている。

 化粧は、もちろんしていない。そこまで気合いを入れてするほどでもないし、元々肌は綺麗な方だからこのままでも大丈夫。

「……うん、久しぶりのわりにはいい出来」

 鏡の前でおかしなところはないかチェックする。
 どこをどう見ても、女子だ。

 白のTシャツに黒ワンピースを重ねただけの、何ともラフな格好。そこまで肩幅があるわけではないため、これが男だと気づくのはまずないだろう。

 ……あっ、でも例外が一人だけ。