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『矢野ってすっげぇ可愛い顔してるよな!』
『矢野くんって女の子より女の子みたい』

 ……あー、もう嫌だ。耳を塞ぎたくなったそのとき、

 ──ピピピッ…

 つんざくようなうるさい音で、俺は目が覚めた。

 カーテンの隙間から溢れる光が眩しくて、思わず目を細める。

「なんだ、今の夢か……」

 むくりと起き上がり、スマホのアラームを消す。なんとも目覚めの悪い朝。

「はぁ……嫌な夢見た……」

 最近はあまり見なかったのに、久しぶりに過去の苦い記憶を見た。
 スマホの時間を確認すると、六時過ぎ。ここから駅まで十分もあれば着くから余裕だ。

「……あれ、今日って……」

 目を凝らしてスマホに表示されている日付を確認すると、今日は土曜日。学校が休みの日だ。
 なーんだ。今日、学校じゃないじゃん。昨日、アラーム解除するの忘れてた。休みの日は八時まで寝ようって決めてたのに。

 よし、二度寝しよう。そう思って、また布団に潜り込む。

「ああっ、だめだ! 寝れない!」

 さっきの夢が原因で目は冴えて、二度寝どころではない。

「……とりあえず起きるかぁ」

 どうせベッドでゴロゴロしたって嫌なこと思い出すだけだ。顔洗ってさっぱりして、ご飯でも食べよう。
 ふあーあ。あくびをひとつしたあと、重たい身体を無理やり動かした。

「あら、朝陽。おはよう。今日は早かったのね」

 顔を洗ってリビングに向かうと、休日なのにいつもの時間に起きた俺に母さんは驚いた。

「アラーム間違えてセットしちゃったみたいで」
「そうだったの。でも、休みの日も早起きするといいことあるわよ、きっと」
「……そうだといいけど」

 食パンをトースターで焼いて朝食を準備する俺は、このあとの予定を頭の中で考えた。

 家にいてもゴロゴロするだけだし、図書館にでも行ってみる? いやでも、そんな気分にもなれないし……