入学したばかりの俺は、学校生活に慣れることに必死だった。校内は当然だけれど男子ばかりで、ガラの悪い人も中にはいた。べつに絡まなければ問題はなく過ごすことができた。

 ある日、生徒会の書記を決めることになった。なんでもこの学校は、一年生二人が書紀をすることになっているらしい。生徒会は放課後に集まってやることが多いとか、体育祭や文化祭などのイベント事では学校と文化祭委員の間に入って指示を出したりなど、やる事は多岐に渡るらしい。みんなそれが嫌で、学級委員長や副委員長、クラスの係はすんなりと決まっていった。残りの人数の中で書紀へ立候補する人を選ばなければならなくなった。その中に俺もいて、だけど一番気が弱そうだと思われたのか押し付けられてしまった。言葉で言い負かすことができなかった俺は、仕方なく引き受けた。

 六クラスから一人ずつが立候補して、生徒の前で演説をする。だけど、立候補といっても俺のように仕方なく引き受けた人も多くて、演説はやる気のないものがほとんどだった。俺は、一度自分が引き受けたからには適当なことはしたくなくて、それなりに演説をした。もちろん受かるとは思っていなかった。
 だけど、後日、生徒会室に呼ばれて、『書記に合格した』ことを伝えられる。そのときに、はじめて夏樹先輩と会った。第一印象は背も高いし、クールっぽく見えて少し怖そうな人だと思った。

 ──それがまさかこんなに仲良くなれるなんて思っていなかった。

「…──のくん、矢野くん」

 聞こえる声に我に返ると、すぐ近くに先輩の顔があって、思わずドキッとする。

「……な、何ですか?」
「なにって、今ボーッとしてたから。暑かった? それとも体調悪い?」
「あ、いえ! 大丈夫です」

 不自然にならないように気をつけながら距離を取る。

「そっか、ならよかった」
「心配かけてすみません!」
「ううん、大丈夫」

 と、先輩は優しく微笑む。

「てか聞いてよ。今日の昼さ──」

 そのあとも他愛もない会話をしながら駅まで先輩と一緒に歩いた。