「ん?」
「今朝のあれって……」
「あーあれね。もしかして矢野くん気にしてた?」
「や、べつにそういうわけじゃ、ないんですけど……」

 先輩があんなこと言うから気になってしまった、とは言えないし。でも、どういうつもりで言ったのかは気になって真意は確かめたい。と、頭を悩ませているの、頭上からクスッと声が聞こえる。

「今朝も言ったけど冗談だよ。だからそんな気にしなくていいから」
「で、でも……」
「ほんとーに冗談だから、気にしないで」

 と、先輩の腕が伸びてきてポスッと俺の頭に乗っかると、乱暴に頭を撫でられる。

「ちょっ、先輩っ……なに、して……」
「何って、矢野くんが今朝のこと気にしてたみたいだから忘れさせてあげようと思って。でも、矢野くんが意識してくれてるみたいだし、本気でしちゃおうかな」
「なななっ、なにバカなこと言ってるんですか……っ!」

 俺は盛大に動揺してしまう。そんな俺を見て「あはははっ」と先輩は楽しそうに声を上げる。

「先輩、ひどいですよ……!」
「だって矢野くんがあまりにも可愛くて」
「俺は可愛くありません!」

 笑い続ける先輩を追いかけながら、少しだけ遠い日の記憶を思い出す──。