「うん、じゃあ矢野くんもう帰っ──…」
会長が言いかけて、わずかに俺から視線が外れたあと、「二人とも帰っていいよ」と言葉を言い換えた。
その言葉に困惑した俺は、会長の視線をたどって振り向く。
すると、背後に夏樹先輩がいた。
「な、夏樹先輩も終わったんですか?」
緊張で少しだけ声が上擦ってしまう。
「一応ね。それで山﨑に持ってきたところ」
「そう、だったんですね!」
女装姿を見られて以来、夏樹先輩とは少しだけ気まずい。
「ざっと確認した感じ夏樹のも大丈夫そうだね」
会長がそう言うと、「あ、贔屓はずりぃぞ」と武田先輩が椅子に背もたれて文句をつく。
「いかに普段から真面目にしてるかどうかで接し方は変わってくるものだよ」
会長の言葉にみんながクスッと笑う。
「何だよ。俺だって普段は真面目にしてるだろ?」
武田先輩の言葉に誰一人として同意をする示す者は現れず、「おいっ、何とか言えよ!」と自分自身でツッコミを入れる。
会長は武田先輩を呆れ顔で見ていたが、立ち止まっていた俺たちに気づいて軽く手を振ってくれた。
「武田先輩、無視したままでいいんですか?」
生徒会室を出てすぐに尋ねると、
「いいのいいの。あいつに構ってるといつ帰れるか分からなくなるから」
夏樹先輩の言葉を聞いて俺は思わず苦笑いをする。
「それより一緒に帰ろ。矢野くんに話したいことがあるんだ」
何のことで話があるのか予想ができた俺は、仕方なく頷いた。
公道を二人して並んで歩いていると先輩に尋ねられる。
「そういえば矢野くんと一緒に帰ったことないけど、歩き? バス?」
「俺は電車で来てます。先輩は?」
「俺も電車だけど、どこから乗ってるの」
「中央線から乗ってます」
「あ、じゃあ、同じホームだね」
「え、そうなんですか?」
「うん。俺は目白駅で降りるから──」
先輩も同じホームから乗っているなんて知らなかった。
でも、そんなことよりも他のことが気になって話に集中できない。
「……あ、あの、先輩……」