「な、なんで、そんなこと聞いてくるんですか」
「この前、言ったじゃん」
「言ったって、なにを……」
「女装するなら俺の前だけにしてって」
真っ直ぐ俺を見つめる先輩の瞳とぶつかって、思わず息を飲む。
「それとも矢野くん、それ忘れてた?」
「……お、覚えて、ます」
あの日から先輩の声が、言葉が、やけに頭にくっきりとこびりついて離れないんだ。
「で、でも、どうしてそんなこと……」
先輩は言うんだろう。
「どうして、か」
俺の言葉を反芻したあと、急に真剣な顔つきになって。
「…──もしも俺が、矢野くんのことを好きって言ったらどうする?」
やけに、クリアに聞こえてきた、それに。
「……え?」
一瞬、本気で告白をされたのかと思った。
先輩が俺のことを……?
いや、まさか。
でも、もしかして。
「なーんて」
パチンッと聞こえた音にハッとすると、たった今先輩が両手を叩いた音だと気づく。
それが冗談だったのだと理解する。
「ちょ、先輩……今のは冗談がすぎます」
「だよね。ごめんね」
先輩は、悪びれる様子もなく謝る。
おかげで俺の寿命はかなり縮んだ気がする。
先輩の言動は、いちいち心臓に悪い。
「今度はいつ女装するの?」
「まだ分かりませんけど……どうしてそんなに気にするんですか?」
「どうしてって、俺もついてくから」
さも当然だ、と言いたげな表情を浮かべていた。