「呼ばれてるよ」
「……ああ、うん」

 鳥羽の声にハッとして、席から立ち上がると、「ついでにさっきのことも聞いてくれば?」なんて楽しそうに言ってくるから、

「あとで覚えておいて」

 捨て台詞を残してから俺は廊下へ向かった。

 それにしても先輩、背が高いなぁ。おまけに顔整いすぎてるから余計に目立つ。

「あ、矢野くんいた」

 俺に気づくと、ニコリと微笑んだ先輩。

「ど、どうしたんですか?」

 緊張のせいで唇がうまく動かない。

「ああ、うん。この前俺が……」

 ──あっ、嫌な予感がして。

「あああのっ、先輩!」

 大きな声をあげると先輩はびっくりしたのか、「ど、したの」と、口をぽかんと開けたまま目を白黒にする。

 自分でも驚くほど大きな声が出た。

 でも、ここじゃダメだ。

「その話は、ここだと目立つので……」

 恥ずかしくなって口元を手のひらで抑えると、俺の言葉の意味を理解したのか、

「じゃああっちで話そうか」

 と、先輩は微笑んだのだ。


 ***


「さっきの話だけどさぁ」

 非常階段に腰を下ろすなり、しゃべりだす先輩に何を言われるのか心臓バクバクの俺に容赦なく先輩は言う。

「あれから女装した?」
「ちょ、いきなり、なんてことを……!」
「回りくどいの苦手だからストレートに聞こうと思って」
「……だからといってストレートすぎます」

 あー…もうっ! なんで先輩は、すぐこうやって真っ直ぐ聞いてくるんだろう。もっと言葉をオブラートに包んでほしいのに。

「その反応は女装した?」
「しししっ、してません!」
「ほんとに?」
「ほんとです!」

 半ばやけっぱちになって言い返すと、

「そっか、よかった」

 と、先輩は口元を緩める。

 ──どきっ

 何だよ今の、どきって。これじゃあ俺が先輩にドキドキしてるみたいじゃないか……じゃなくて!!