「俺、先輩のことが好きです」
ここは、教室の中。だけど、廊下もすぐ近くにあって。そこを誰が通るか分からない。
「夏樹先輩のことが好きなんです」
どうしても今伝えなきゃいけないって思った。
「矢野、くん……」
先輩は、ただ俺のことをじっと見つめているだけだった。
緊張する。手だって震える。
だけど、今言わなかったらきっと後悔する。
その方がよっぽど嫌だから。
「告白されたときはわけ分からなくて、どうして俺なんだろうって思ったりもして。でも、先輩と過ごしてるときはすごく楽しくて、いつも笑ってる自分がいて。先輩が真っ直ぐ気持ちを伝えてくれる。それがドキドキするけど、嬉しくもあって」
廊下とか教室とか、もうそんなこと考えてる暇なんかなくて、俺は伝えたいって思った。
「先輩ともっと話したい。先輩の笑った顔をもっと見ていたい、気づけばそう思うようになっていて。修学旅行で先輩が四日もいないって思ったらちょっと寂しくなって、声を聞いたら会いたいなって思ったんです。たくさん時間がかかってしまってごめんなさい。でも、その分ちゃんと考えました。俺は、夏樹先輩のことが好きです。だから──」
だから俺と付き合ってください、そう言おうと思ったら、腕を引かれて抱きしめられた。
しかも、かなりの力で。
「あのっ、先輩?!」
「矢野くんの言葉の破壊力まじでやばいよね」
「ここだと人が来てしまうんですが……」
「たった今、告白の返事くれた人が何言ってんの」
「それとこれとは話が違うっていうか」
先輩の腕の中にすっぽりと収まっている俺に、「今のほんと?」と耳元で尋ねてくる。
その声がいつもより頼りなくて、甘えているようで。
「ほんとです。俺、先輩のことが好きです」
もっとちゃんと言葉で伝えたくなった。
そしたら先輩は、「すごい嬉しい」と言って、また腕の力を強めた。でも、苦しくなくて、心地よくて。
「俺も矢野くんのこと好き」
「……はい」
「すごい好き」
「……俺も、です」
「俺たち両想い?」
「はい、そうです」
そんな会話がくすぐったくて、だけど幸せで。