機械の向こう側から先輩が微かに笑った声が聞こえた。
 ──先輩の顔、見たい。

「先輩、俺も……」

 ──〝生徒会は四月で引き継がれる。だったら二年生もあと少しで終わり〟

 鳥羽の言葉を聞いて俺は、 〝寂しくなる〟と思ってしまった。
 そして今も、先輩の顔を見たいと思った。

 今までずっと気づかなかった。いや、気づかないフリをしていたのかもしれない。気づいてしまったら〝今の関係〟を壊してしまうことになるかもしれないと思ったからだ。

 だけど、もう俺は気づいてしまった。この感情の正体に。

「俺も先輩に会いたいです」

 気づいてしまったら嘘をつくことはできなかった。

『矢野くんがそんなこと言ってくれるの珍しいね。嬉しい』

 先輩の声はいつだって優しい。
 その優しい声で何度でも名前を呼んでほしくなる。

「先輩」

 スマホを持つ手に力が入る。

『ん?』
「修学旅行が終わったら話したいことがあります」

 その瞬間、廊下の窓からふわりと冷たい風が入り込み俺の頬を撫でた。

『……うん、分かった』

 機械の向こう側から先輩の真剣な声が聞こえる。
 その直後、チャイムが鳴ったので。

「あ、じゃあ、修学旅行楽しんでください!」
『ありがとう。矢野くんも授業頑張って』

 スマホを切ると、教室に戻った。

「夏樹先輩何だって?」

 すぐに鳥羽に聞かれる。
 どうして夏樹先輩だと分かったんだろう。

「お土産何がいいって聞かれただけ」
「ふーん」
「何?」
「べつに何も」

 何もって顔してないけど、聞かれたくないから今話した内容は内緒にしておこう。