「ナナちゃんは、どこにいたの?」

 ふいにママさんが聞いたけど、私を通り越してどこか遠くを見ているような目でこちらを見つめている。

「この二日間、どこにいたの?」

「――家に、帰っていました」

「えっ?」

 ママも来夢さんも、かなり驚いたように目を見開いている。

 しばらくの間、気まずい沈黙が流れた。

「良かったわ。ナナちゃんには、帰れる家があったのね……」

 ママがどこか寂しそうに微笑んだ。

「……私はここで働かせてもらった時には、自分の状況をなんて言っていたんですか?」

「ただ『家を出てきた』と言っていただけよ。ていうかね、ナナちゃんは他のお店の面接に行ったのよね。でも、十七才じゃどこも雇ってくれないのよ」

「他のって、やっぱりスナック……?」

「そこはもう少し派手なキャバクラっぽいお店ね」

「えっ? キャバ――――」

 どうして私は夜のお店で働こうと思っていたの?
 そこにどうしても引っかかる。

「母親の影響らしいぜ」

 私の心の声に応えるように、メンソールのタバコに火をつけながら来夢さんが言った。

「母親?」

「そ。ナナちゃんの母親は若い頃に水商売をしていたってさ。だから、自分もやってみたいと思ったとか」

 お母さんが水商売?
 そんな話は聞いたことがない。

 というか、お母さんが若い頃に何をしていたかなんて聞いたこともなかったから。

 働く動機を聞かれて、適当に話していたのだろうか。