店内はカウンター席の横にカラオケの機械と歌うスペースがあり、周囲には紫色のビロードのイスが並んだボックス席が四つほどあるだけの狭いスペースだった。
 
 ママがソファ席を私に勧め、その前にある椅子に腰を下ろした。

「来夢、コーヒーお願い。ナナちゃんにはノンアルのソーダ水ね」

「ノンアル? ふうん、オッケー」

 どこか含みのある言い方をして、来夢さんがカウンターの奥へ消えた。

 緊張感のある空気の中、ママが煙草に火をつけた。

「それで? なんで黙っていなくなったの?」

 言い方は冷淡だけど、私を見る目はヤケに優しく感じた。

「あの……ごめんなさい」

 なにをどう説明したら良いかわからず、とりあえず私は頭を下げた。

「いいのよ、べつに。怒っているわけじゃないの。だけど、心配するじゃない。ナナちゃんみたいな世間知らずな子。荷物もスマホも全部置いていって」

 ママが横を向いて煙を吐き出した。
 私は下を向いたまま、ただ彼女のアルトの声を聞いていた。

「いなくなる前のナナちゃん、お休みの日に無断外泊した日があったわよね? そのあとからじゃない? やけにボンヤリしていてミスも多くて。何があったのか話を聞こうと思って部屋に行ったのよ。あの日、お店が終わった二時過ぎにね」

 薄化粧でもハッキリした顔立ちの美人なママがその力強い視線を真っ直ぐ私に向けた。

 目力が強くてどこか圧を感じるけれど、それでも愛も感じられる。不思議な魅力のある人だ。

「ナナちゃん、なにか悩んでいるんでしょう? ナナちゃんをお店に置いてまだ二週間くらいだけど、私は娘のように可愛がってきたつもりよ。十七歳の頃の自分に似ていたこともあったのかしらね……。他の子もビックリするくらい、たぶん、特別扱いだったと思う」

「だな。あんまり店には来ねえけど、息子の俺でもそう見えた」
 
 来夢さんが空色のソーダ水を私の前に置いた。

「ノンアル許したしな」

 ママの前にもコーヒーカップを置くと、来夢さんはうしろにあるカウンターのイスを引いてこちら向きに座った。

「――――ナナちゃんはキッチン担当でお店に出ていなかったから」

 その言葉に驚くとともに安堵もした。
 私は水商売の接客をしていたわけじゃなかったんだ……。