今はしっかりとした口調で話しているけど、どうしてもその怪しい目つきと小刻みに震えているのが治まらないミーナの様子が気になってしまう。
「あの、ミーナ。さっきから気になっているんだけど……」
「なんで、さっきからミーナなんて呼ぶのよ。夕璃はミナって呼んでよ」
「……ご、ごめんね。ミナ、さっきからすごく震えているよ。大丈夫?」
「ドラッグが抜けてないからね」
即答でなんでもない顔をしてそんなことを言われると、さすがに引いてしまう。
やっぱり、薬をやっているんだ。
この態度はきっと、私も知っていて容認していたってことだろう。
ってことは、やっぱり彼女の話に信ぴょう性は薄いのかもしれない。
一昨日殴られていたから、思わず信じそうな話もあったけれど。
「夕璃はそんな目で見ないでよ……」
やけに哀しそうに言われたから、胸の奥の方が痛むのを感じた。
「ねえ、警察に渡してないんだよね? 夕璃が消えたって聞いて、すぐにガサ入れが来ると思ったのに。だったら、〝あれ〟はどこにあるの?」
ミナが青ざめた顔で必死に訴えかけるように言う。
これは何かの妄想なのか、なにを心配しているのか、記憶のない私には全く判断がつかずに申し訳ない気持ちになる。
「だから、〝あれ〟ってなに?」
「とぼけないでよ!」
声を荒げたミナがハッとして口を押さえた。
「Bモーニングお待たせしましたぁ」
さっきの店員さんがのん気そうにミナの前にプレートを置いた。
「ありがとう」
低い声でミナがつぶやくように言うと、店員さんは伝票を置いて去って行った。
「ねえ、夕璃。あれをとったのがあたしだってあいつらにバレたら、マジで命の危機なの。冗談じゃなく、人知れず東京湾に沈められるかもしれない」
そんな言葉を聞くとゾッとする。
私は実際に佐間川で殴られて放置された。
だけど、彼女の精神状態が正常かどうかが私には判断がつかなくて、その話を丸ごと信じることが出来ない。
ふと、今のミナの言葉で気になったことがあった。
「ミナ。今、東京湾に沈められるかもしれないって言ったよね?」
「そうだよ、本当だよ! 殺されるかもしれないの」
「……そっか、沈めるって、確実に殺すってことだよね……」
私を殴ったという女の子は殺す気があったにせよ無かったにせよ、川に沈めることなく放置したのだ。
もちろん、人に見られたからかもしれない。
だけど、つまりは用意周到に準備して殺そうとしたわけじゃないように思えた。
佐間川のあの河原はバーベキューの出来るようなところだから、夏休みの時期は夜でも花火をしている人だっている場所だ。
絶対に人が来ないというわけではない。
たまたま私があそこへ行ったのを見つけて、暗くて人がいないように見えたから殴ったのかもしれない。
もしくは、私と話していて口論になって殴ったとか――――?