明日から夏休みという終業式だったその日。
全員に成績表が配られて帰りの号令がかかると、教室の中の空気が変わって騒がしくなる。
私はいつもこういう瞬間に、自分の視線が窓際の前から三番目の席に向かってしまうのだと気がついた。
そこには、物心つくころからよく一緒に遊んでいた、幼なじみの栗原鉄平の姿がある。そして、そのテッちゃんの視線の先には、教壇目の前の列の前から二番目、そう、私の前の席に座っている宮城菜々の姿があることも知っている。
菜々は去年、高校に入学した頃からの私の親友で、ほんわりとした雰囲気の可愛い女の子。小さい頃から大好きだったテッちゃんが菜々を好きなことは、一年生の時から気がついていた。
菜々はきっとそんなことを知らない。彼女にとってのテッちゃんは単に親友である私の幼なじみであり、仲の良いクラスメートの男子くらいにしか思っていないのだと思う。
テッちゃんのことは好き。自分の想いを大切にはしたいけど、彼の想いも大切に思っている私もいる。
日に日にその二つの想いのせめぎ合いが辛くなっていっているのを感じていくから、今日の私は一大決心をしていた。
チラリと前の席を見ると、成績表を片手にご機嫌な様子で軽快な手つきでスマホをいじっている菜々が見えた。恐らく、いつものほんわりした笑顔を浮かべているんだろう。私は少し前のめりになって、そんな彼女の背中をつついた。
「菜々、成績良かったんでしょ?」
やはり笑顔でふり返った菜々は、ふふふっと笑って思いっきり首を横に振った。
「全然! お母さんに成績表を写メしておいたの。ほら、このあと保護者会でしょう? 見せる前に来ちゃうからさ」
そう、うちの学校は保護者会で保護者にも漏れなく成績表のコピーを配られる。だからなのかどうかは定かではないけれど、保護者会の出席率はかなり良い方だという話。
「そっか。うちはその苦労が無いからいいのかな」
「夕璃は成績がいいからねぇ」
菜々が拗ねたような顔で口をとがらせる。くるくると変わるその表情を見ていると、同性の私から見てもかわいいと思う。
「じゃなくて、お父さんは仕事で来られないから。いつも保護者会は欠席だもん」
「ああ、そっちね。そっか。そうだよね」