桜の葉も散り桜の花が付いていたところには緑の葉がつき始め、初夏を感じられる季節になってきた。
学校の生徒も徐々に冬みたいな格好だった人たちが薄手の長袖や半袖に変わり始めている。
「ああ。まだ、5月。」
でも、一週目はGWで学校が殆ど無い。
課題が出る分にはいいから、とっとと学校が終わってほしい。
窓の外を見ると新緑の葉をつけた桜の木と田舎ならではのお茶畑が広がる。
見慣れた景色には大きな山が映る。
窓際の席はまだ、春の残りを感じる風が吹き付けている。
川は太陽に照らされキラキラ輝いている。
みんな、GWを目前に友達と何処かで遊ぶことを約束している。
そんなみんなを羨む気持ちもある。
だって、私の家にはそんなのないから。
いつだって優希が一番だから。私のことなんて目にも止まらない。
まあ、親も私みたいな子をほっとくのは当たり前かな。
そう思うようにしてる。
そして、暇になったことを理由に廊下にでた。
「あっ。いおり…」
そこには私と同じくらいのスカートの長さにしている葵乃ちゃんがいた。
「なに。」
「休み明けだからここに来ると思って待ってたの。」
今日は早めに学校に来た。図書室に籠りたかったから。
それを待ってたのか鞄を背負ったままだ。
「ずっと待ってたの?」
「うん。」
なんで今日は同じ電車に乗ってなかったのか最初は疑問だった。前までは一緒に行くことはなかった。
だけど同じ電車に乗ってるからという理由で一緒に行くことに最近はなっていた。
そして今日は図書室に一人で篭もるために電車を早めた。それなのに。
「なんで待ってたの」
「いおりと一緒が良かった」
「あんまり話してないのに?」
少し疑いを持っている声色できいた私に、答えを返していく。
嘘かホントか分からない答え方をするからその後の質問が思い浮かばない。
少しだけ顔を上げると葵乃ちゃんは少し悲しそうだった。
「いおり」
少し笑った感じでストレートでキレイな黒髪を靡かせる(なび)
「ねえ、ウチの家に泊まりなよ」
「え…?」
唐突に言われた一言に困惑した。素っ頓狂(すっとんきょう)な声が漏れる。
マスク越しに口が半開きになる。
「1日だけ。」葵乃ちゃんは真剣な眼差しを向ける。
「一緒に過ごそう」
少し笑い気味に言う。真剣な眼差しをそのまま向けながら。嘘を言うことがないことはわかってたから、真実だということはわかる。
「何いってんの。いきなり。」
私でも驚くほどの冷たい声だった。
「それはできない。」
頭で考える前に言葉がでた。
「親が心配する」
「ねえ、いおり。」
表情を変えない。私をまっすぐ見る。
「ほら、いこう」
私にそっと手を差し出す。
「やだ!」
発した声は悲鳴にも聞こえる声だった。
そして、走って教室に戻った。
葵乃ちゃんの瞳も表情も見ることなく。

気がつくと私は教室についていた。
まだ、誰もいない教室には私の一つの安心材料だった。
いつもなら座れない席にも今日はすんなり座ることができた。
ただでさえ、優希が大変なのに私まで迷惑をかけては行けないと思ったから私は断った。
だけど、少し心が揺れた。
少しだけ、甘えてしまいそうだった。

始業まではあと30分。
時計を見てボーッとしている私を前に教室のドアが開いた。
「おっはー!!」と朝から元気な声が響いた。
もちろん、私しか居ないから反応はない。
すると「早く着すぎちゃったか。」と独り言のように呟いた。ついに地獄の1日がまた始まる。ここにいる異常もう、どうにもならない。また、意味のない1日をやり過ごす。そのことを考える。実に意味のない1日だ。そして、時間の無駄だ。
そして、スっといきなり振り向いたその子は私を見ると
怪訝な顔をした。私みたいな奴はいちゃいけないことぐらいわかってるのに。その瞳は痛いほど私の脳に心に突き刺さる。
その瞳を浴び続けるのが嫌で私は本に目を向ける。
ある一種の現実逃避。バカみたい。そして5分後。
ガラガラッと大きな音を立て扉が開いた。
「おはよ〜!はやいやん!!」とつぶやく。
「そうなんよ。早く着いたわ。」と一気に華やかな雰囲気になる。そしてまた、私を見るなり嫌そうな目を向ける。それが、どんなに冷たく、痛ものかを嫌というほど見た。だから、何も知らないフリ、何も聞こえないフリ、なんも見えないフリをする。そして、すぐさま今読んでいる本に目を落とす。隣の席が埋まったけど私に脇目も振らない。
お前なんかいない、遠回しにそう言われている気がした。私も挨拶なんかしない。最初から私は無視をしていた。そして、私はひたすら本を読み続ける。
集まる視線も気にず、その声も目も表情も頭に入れない、視野に入れないように務める。

1限目の数学は、みんなが嫌う一つの教科だ。
内容は別に難しくないし、先生もわかりやすい。
だけど、私が授業を嫌う理由は一つしかない。
「じゃあ、この問題を…〇〇さん」
そう、これだ。ランダムで指名をし前で問題を解かせ、説明までさせる。間違えれば笑いの的だ。
指名をされなかった少しの安堵と始まりの合図に大きくため息を吐く。
そして次の瞬間。
「じゃあ、この問題を解いて解き方も説明して。
じゃあ、神山いおりさん。」
シャーペンを握る手には力がはいる。
手が震え始める。
ノートを持ちゆっくりと席から立ち上がる。
そして、黒板に文字を書く。
そして、説明もする。
声が震えた。何もかもが真っ白で状況は掴めない。
だから嫌いなのだ。
あ〜。落ち着いてよ。私。このクラスに居ないようなものなんだからいいじゃん。
なんでこんなに緊張してんの。
「はい正解」と終わりを告げた。冷たかったけどね。
力が抜けたかのように椅子に座る。


そして、体育の時間。更衣室に入った途端、ざわめきが止まった。まるでなんでお前なんかきたんだ、と言われてるみたいに。
「それでさ〜、」と話し始める。一瞬の時の止まりがなかったかのように。
隣に制服が置かれてない場所を選ぶ。
そして、素早く着替える。急いでシューズに履き替えた。
「じゃあ、二人一組で体操始めろ〜」と言われたと同時にピーッと笛がなった。
そしてある人があまり私と組むことになった。
「うわ〜。どんまい。瑠々(るる)
私はこの人が瑠々という名前であること。そして、私より華やかであることがわかった。渋々私の後ろにつく。
そして一言かける。
「すみません。」
「別に」
素っ気なく答えられた。瑠々さんは私の体を優しく押してくれた。私みたいな奴にも気を遣うことが出来るのは凄いなと思う。
「変わります。」
そして私も優しく押す。決してこの瑠々さんの体を傷つけないように。優しく、丁寧に。
「痛くないですか?大丈夫ですか?」
「そんなに確認してこないで。何も言わないなら大丈夫だから。」
「すみません。」
また、私は怒らせた。私は不手際で不器用すぎていつもすぐに人を怒らせる。
またやらかした。
準備体操が終わると先生が次の指示を出した。
「キャッチボールをそのままのペアでやれ〜」
そして瑠々さんとキャッチボールを始める。
瑠々さんと私のペアを周りの人は哀れみの目で見る。
ボンボンッとボールの行き来する音が響く。
あくまでこれも怪我をさせないように。
優しく。優しく。緩いボールを投げる。
ピーッと笛がなる。「一旦休憩」と先生が言った。そして皆水筒を取りに行く。
すると、瑠々さんが私に近づいてきた。
「ねえ、いおりさん。」
「はい」
私はビクビクしながら話をし始めた
「さっきからなんで、そんなに確認するの。なんであんなに弱いボールなの。前はもっと勢いがあったじゃない。」
質問攻めという言葉が似合う程に質問を並べて私にぶつける。
「そ、それは」
私はおどおどしながら答えを探す。当たり障りのない言葉を選ぼうとするのに時間がかかる。
どうせ、これでまた人を怒らせる。
いつもそうだから。
「ねえ、いおりさ…」
「瑠々〜。なに話してるの」
花梨(かりん)…」
「どうかした?」
「う〜ん。あとで話すね。」
そして二人とも目の前から去っていった。
あ〜。また人を怒らせた。私ってほんとに使えない。
要らない。こんな私なんか消えちゃえ。
こんな、私、生まれてくるべきじゃなかった。
あ〜。嫌だ。息をするのも歩くのもご飯を食べるのも。人間らしい、生きていることを示す行動なんか大嫌い。
あ〜。死にたいよ。
そして気分は沈んだまま、着替えをし教室に戻った。


教室につくと花梨さんと瑠々さんが二人で話していた。
その話の断片が聞こえるけどきっと私の悪口だ。
面と向かって言われても嫌だから、影のほうがいいけど。少し複雑な気持ちだ。
そしてお弁当の時間になった。
カバンから取り出すものは小さなお弁当。それすらも胃に入れるのが嫌で真っ先にゴミ箱に向かう。
そして蓋を開け中身を捨てようとする。
「待って」と私の手を掴んだ。
「え…。」
「なにしてんの。」
「関係ないのでほっといてください。」
「それお弁当だよね。なんで捨てるの」
「別に食べたく無いからです」
「そっか。」
そして、お弁当を持ち中庭に走る。
どうして、いつもこうなるの。
もう、私なんかほっといてよ。
そして、どんな風に過ごしたかなんて覚えてない。
ただ、家に帰る。


「ただいま」
「あら。いおり。おかえり」
「あ、うん。」
「ねえ、優希みててくれない」
「え。なんで?」
「これから用事なのよ」
まただ。私と優希をおいてどこかに行く。
私なんかいらないのかな。
「ねえ。優希もつれてってよ」
「え。なんで。」
「私なんかに任せないほうが良くない」
そんなことを言うとお母さんは悲しそうな顔をした。
母親をこんな顔にさせる子供は早くこの世から消えたほうがいい。そう思うのに。
「わかったわ。つれてくわ。優希。準備しなさい」
「うん」
そして優希が準備をしお母さんは家を出た。
誰もいない部屋には力の抜けた私の乾いた笑いがひびく。それと同時に涙もあふれる。
窓際に行き感情がグチャグチャになった、頭の中を整理するかのように涙を流す。
あふれる涙の意味なんか考える余裕もなかった。
今日一日を振り返る。
私の一つ一つの発言、行動すべてを。
一体、花梨さんと瑠々さんはなにを言いたかったのだろう。あの人たちに私のことなんか関係ないし、絡んでもいいことないのに。なんで、私なんかと。もっと、他にいい人がいるから。私なんかに話しかけなくたってこの一年を過ごせるのに。なんで、なんで。お世辞で、哀れみの目で見てるなら、ほっといてほしい。それほど私にはいやだった。