最後のセリフは元気に言わなくてもいいと思ったけど、智紀はまたにこにこし始めてる。
「あと、俺の初めての恋人はお前だからな。さ、次はお前が自己紹介して」
「俺は何も言うことない」
「だめだめ、順番だから」
そうは言うけど、自己紹介なんて一番苦手だ。しかも今さらすぎる。彼が知らないことって何だ?
「俺は……」
いや、まぁまぁあるか。
「……八月二十四日生まれ、乙女座。血液型はAB。好きな食べ物は肉全般で、趣味じゃないけど料理は毎日してる。母親がいないから」
智紀どころか、高校に入ってから誰にも話したことない。でも、彼には知っていてほしい。本当は隠しておきたいところも。
「でも代わりに、弟に甘いもの作ること多かったから。多分、お前にも作ってやれるよ」
「マジで!? それは是非お願いします!! お前が作った菓子とか食いたい!」
「分かった分かった」
やっぱり子どもみたいな彼に笑いを堪えられない。嫌でも癒される、そんな存在だ。
「好きになった奴は結構いるかも。でも触りたいって思ったのは……智紀が初めてだ」
「さわ……」
言ってる意味が伝わったのか、智紀はやや頬を赤らめる。そして腰を浮かし、隣に寄り添ってきた。

「……俺も、お前が初めて。触ってもいい?」

ほとんど触れそうな位置に彼の手が。
息が当たる位置に、彼の唇がある。
触ってもいい、なんて愚問だ。────触ってほしい。

「ん……っ」

返事は言葉ではなく、彼の口を塞ぐことで応えた。
家に親がいないからって、こんなことはしちゃいけない。分かってるけど、身体は言うことを聞かなかった。
彼の膝の上にまたがり、熱くて柔らかい舌に必死に食らいつく。
何分そうしてたか分からない。智紀は何も言わず、優しい手つきで抱き寄せてくれた。
最後の良識も吹っ飛びそうだ。溶かされそうに、熱い。

「夕夏、大丈夫か? 無理すんなよ……」

心配そうに見上げる彼に、もっと触れたい。繋がりたくて、シャツのボタンに手をかけた。その手はわずかに震えてしまっている。
引かれないかな。笑われないかな。拒絶されないかな。

怖くてしょうがない……。

「智紀」
「うん?」
「今日……帰りたくない」

怖いのに、さらっと言ってしまった。
顔から火が出そうだ。今この部屋の気温はやばいんじゃないかって、非常にどうでもいいことを考えた。