真弘は閃いたと言わんばかりに、得意げに微笑む。遊園地とか水族館とか、定番の場所で良いからデートをするよう薦めてきた。
「恋人なら学校なんかじゃなくて色んな所に行かなきゃな。そこでしか交わせない話や、出せない雰囲気があるんだから」
「ふうん」
なるほど。確かにシチュエーションは大事だ。
マンネリに不安があるわけじゃないけど、新しいステップに踏み出すのは悪くない。真弘のアドバイスを受け、翌日の放課後に智紀を呼び出した。
「智紀、行きたいところないか? デートしよう」
「デートォ!? 嬉しいけどお前はいつも唐突だな!」
すっかり人がいなくなった教室で、智紀は驚きの声を上げた。
「でも今からだと……遠いところは考えちゃうな。夜になっても楽しいところ。どこだろ」
「明日は土曜日だし、俺は何時でも平気だよ。お前が可能な時間まで」
智紀は真剣に悩んでいる。その姿を見るのも面白くて、しばらく黙っていた。
けど彼は何か思いついたのか、笑顔で指を鳴らす。
「決めたぞ、夕夏! 今日のデートスポット!」
「……どこ?」
正直なことを言うと、俺はどこでもよかった。彼と居られるならどこでも。
────そう。“ここ”以外は。
「お、……お邪魔します」
「おう。入って入って」
三十分後、やって来たのは智紀の家。カップルが溢れる華やかな場所じゃない。だが、これはこれで変に気が張った。
「ちょうど良かった。実はさ、今日親帰って来ないんだよ。結婚記念日だから三つ星ホテルに泊まって楽しむんだって」
「何、そうだったんだ」
「そう。あ、だからもし平気なら泊まってくれてもいいぜ」
キッチンへ向かう。智紀は俺に笑いかけた後、飲み物の用意を始めた。
その端で、彼の言葉を反芻する。
智紀の家に泊まる……!?
どうしよう。それはもちろん、めちゃくちゃ泊まりたい。
でも今日は何も持ってきてないし、準備不足にも程がある。どうせなら最高のコンディション(?)で臨みたいし、智紀だって実際いきなり泊まられたら迷惑かもしれない。
でも泊まりたい。何コレどうしたらいいんだ────!
「よーし、俺が開発したレモンとシナモンとホワイトチョコ入り特製ココアの出来上がり。さ、俺の部屋に行こう」
「あ、あぁ」
心の中はかつてない葛藤で荒れ狂ってる。しかしそれを悟られないよう、真顔を保って彼についていった。