「文化祭って何で二日間しかないのかな。もう一週間ぐらいやってもいいよなぁ」

雨が降りそうな曇り空を窓から見上げる。この空模様はまさに自分の心を表している。夕夏は密かに思った。高校最後の文化祭は、先週終わった。何も問題なく、本当に綺麗な思い出として幕を閉じた。
楽しかった……から、まだその余韻に浸っている真弘の気持ちもよく分かる。

「そうだな。さすがに一週間は長いけど、後一ヶ月はやっても良かった」
「何で期間伸びてんだよ! 流れおかしいぞ!」

真弘は青い顔で振り返った。さらに心配そうに近寄って、俺の額に手を当ててきた。
「大丈夫か、夕夏。お前がそんな馬鹿みたいな間違いするなんて、熱でもあんじゃないか?」
「……」
「いや、熱じゃないな。須賀君と付き合ってからのお前はとにかく変。浮かれてるとも違うけど、何かなぁ。ボーッとしてる」
パッと手を離し、彼は大袈裟なため息をつく。

「今さらだけど、お前らどこまでいったの?」
「どこって? どこも行ってないよ。あ、そういえばどこにも行ってない! まだデートとかしたことなかった!」
「落ち着け。それに俺が言ってんのはそういう意味じゃなくてぇ……お前ら、キス以上のことはシた?」

キス以上。意味を理解し、想像するまでに数秒かかった。どう返していいのか分からずに俯くと、真弘は再びため息混じりに肩を竦めた。
「まだみたいだな。しょうがないか、自信満々のくせに恋愛下手と、鈍感な天真爛漫のコンビじゃ」
「何だよ。早けりゃ良いってもんじゃないだろ!」
「そりゃそうだけど、マンネリになんないよう頑張れよ」
目の前に人差し指が迫る。真弘は切れ長の眼をさらに鋭くして、俺のことを指さした。

「お前が平気って思ってても、向こうは分かんないからな。気を遣って、我慢してる可能性もある」
「我慢って、まさか……と、智紀が欲求不満ってこと?」
「無きにしも非ず。須賀君だって男だし……皆が皆お前みたいに、少女漫画みたいにキャッキャウフフなお付き合いをしたいとは限らないぜ」

確実に馬鹿にされてるけど、一理あるため言い返せない。そもそも智紀は俺を気遣って、キス以上のことはしてこない。今の関係が発展しない理由はそれだ。
原因は智紀じゃなく俺にある。彼に我慢させていたのかもしれない────。

「……って、冗談はともかく良い機会じゃん。デートぐらいして来いよ」