夕夏が俺を必要としてる。それも尋常じゃないレベルで。
やばい。かなり嬉しいぞ。
大事な奴から求められることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
皮肉だ。自分が嫉妬してる時はすごく嫌な気分だったのに、嫉妬された時の気分の良いこと。
それと、夕夏も俺と同じ気持ちだったんだ……。
俺の知らないところで、彼なりに悩んでいたんだ。そう思ったら胸のあたりがムズムズして、膨れ上がる想いを声に出した。
「う~ん、お前が妬いてるところとか想像しただけでテンション上がる」
「何でだよ!!」
夕夏は驚きながら怒っている。でも、悪いけど喜びを抑えられない。
「やばい夕夏、俺今自分に酔ってるかもしんない。お前にそんな好かれてたんだって分かって、幸せ過ぎてツラい」
「そりゃお幸せなことで。でも頭の中花畑過ぎんだよ」
「何だよ! 本気で悩んでたって言ったろ!」
「お前の悩みは凡人にとっちゃ贅沢な悩みだよ!」
胸焼けしそうな甘い雰囲気から一転、途端に口論が勃発した。しばらく互いに睨み合ったけど……それも何か可笑しくて、二人で項垂れる。
「教室、戻ろうぜ」
夕夏は徐に立ち上がって、手を差し伸べてきた。
彼は今、誰が見ても騙されるぐらい、満面の笑みを浮かべている。
でも、多分これが彼の本当の顔だ。ずっと仮面を外せずにいた、彼の素顔。
「あぁ!」
初めて会った時からずっと、俺はこの顔が見たかったんだ。
作り笑いじゃなくて、本当の笑顔を引き出したい。それが彼に抱いた最初の感情。
気付いていたけど忘れていた。願ってたけど叶えられなかった。……大切な想い。
「あっ! 須賀と七瀬、やっと戻ってきた!」
「遅い! いつまでサボってんだよ!」
教室へ戻ると、クラスメイト達は一斉にこちらを向いてブーイングを始めた。俺も夕夏も互いの顔を見合わせ、冷や汗を流す。
「ご、ごめん!! ちょっと用があって……! 今からどんだけ残ってても仕事するから!」
両手を合わせて頭を下げると、目の前に来た弥栄が笑って肩を叩いた。
「ばか、もう仕事は終わったよ。ジュースとか買ってきたからさ、皆で本番前に打ち上げしようぜ」