昔の夕夏は今と百八十度違う性格だったらしい。明るくて優しくて、周りに困ってる人がいれば放っておかない、理想の優等生。
じゃあ、その頃は人並みに恋して生きてたのかな。甘酸っぱい恋愛に憧れて、どんな恋人が欲しいかって考えて、毎日過ごしていたんだろうか。

それを全て壊したのは、二年前の事件。とはいえ事件後の報復が酷かったから、あれは氷山の一角に過ぎない。夕夏が一番傷ついたのは、多分……今まで味方だと思ってた友人達に蔑ろにされたからだ。
そのときに自分がいたら助けてやれたんだろうか。過去には戻れないけど、どうしても考えてしまう。

そもそも親父の異動がなきゃここに転校することはなかった。夕夏と出逢うこともなかった。
あ。
そういや前の学校の奴ら元気かな……。
誰かと別れる度に誰かと出逢う。今までそんなに考えたこともなかったけど、転校だって充分特別な巡り合わせだ。
初めて転校したのは小学校三年生のとき。あのときは嫌で嫌で大騒ぎしたのにすっかり忘れてた。でも今は転校と言われたら「またか」ぐらいにしか感じない。
変わったんだ。子どもの頃に比べれば、きっとつまらないオトナになった。でもしょうがない。それも間違いなく俺だ。色んな学校を渡って、流れ着いたのがココ。

前の学校も良かったけど、この学校にも来れて良かった。

「やー……っと見つけた。どこ行ってたんだよ」

低い声と同時に、横から黒い影が現れる。足音が聞こえなかったからかなりびっくりしたけど、夕夏だ。
「教室にいないから捜したんだぞ。段取りよく進んだし、皆そろそろ帰ろうってさ」
「あ、そうなの!? やばい、俺あんまり手伝ってない……!」
「大丈夫だろ。昨日までは普通にやってたんだし」
夕夏はのんびりした口調で腕を伸ばした。やっと帰れる、と嬉しそうに笑ってる。ということは……やっぱりクラスメイトの前では無理して明るく振舞ってたみたいだ。
「戻ろうぜ、智紀」
「お、おう」
いつもと変わらない。隣に並ぶ距離も変わらないはずなのに、妙な隔たりを感じる。夕夏が手の届かない場所に行ってしまうような焦燥感が。

「夕夏。やっぱり、無理してない?」
「またそれ? 無理なんかしてないって」
「本当? 変わろうとしてくれてんのはすごい分かるし、すごい嬉しいけど……何か不安なんだ」