一本気で、常に全力投球。人を疑うことを知らない。
正義感が強いから誰かと衝突することもあるけど、その後のことはまるで考えてない。むしろ衝突したら次の日は戦友、みたいな考え方を秘めてる奴だ。熱血バカとしか言いようがない。
ポケットの中に手を入れ、瞬きを繰り返して彼を盗み見た。
地べたに頬をすりつけ、涙目で小銭を探している彼は本当に哀れだ。もはや不憫すぎて泣けてくる。間違いなく、馬鹿の部類なんだ。そんな彼が好きで好きでたまらない……自分はきっと、一番馬鹿。
あんな素直な奴がこの世にいていいんだろうか。
怖いな。
いつか智紀が人の汚いところを知って、傷ついてしまうのが怖い。自分よりも断然、彼のことが心配だ。
だから守ってやりたい。人付き合いは自信ないけど、悪事を暴くのが得意だ。だから互いに得意な方面で守り合おう。自分と彼は、表裏一体だ。
「智紀」
ゆっくり歩いて前へ屈む。すると彼は地べたに張り付いたまま、悲愴感漂う目で見上げてきた。
「夕夏……俺の百円が自販機の下に入っちゃったんだ。あれしか持ってないのに…………」
「買ってやるから人に見られる前に早く起きろよ」
ポケットから財布を取り出し、小銭を数枚入れる。智紀は迷わずコーラを選び、涙目で礼を言ってきた。
「ありがとう、夕夏! この御恩は必ず、明日返す!!」
「別にいいって。それよりお前、髪に埃ついてる」
おまけに顔の左半分も、ちょっと砂がついていた。軽く払ったけど汚いこと山の如しなので手洗い場に連れていく。
水でぬらしたハンカチで、彼の頬を拭いた。
「わっ! あはは、夕夏待って。冷たい……!」
「我慢しろ。そのままは汚いだろうが」
可笑しそうに笑ってる彼に呆れながら注意した。何とか見た目には分からないぐらい、埃や砂は落とせたと思う。
「ありがとう!」
智紀はにこにこしながらコーラを飲んでる。幼稚園児みたい。本当に、高三とは思えないにこやかさだ。……自分も含めて。
「そういえば、生徒会室行ってたんだよな。大丈夫だった?」
「あぁ……」
短く返事して、廊下の壁に寄り掛かる。本当は弥栄に無理やり送り出されたんだけど、恩着せがましく迎えに来てやったんだと伝えた。
「そうかぁ……ありがと! お前のおかげで無事にジュースも飲めたし、感謝してるよ!」