放課後の学園内は賑わっている。普段ならせいぜい数人の生徒が雑談をしてるだけの教室も、ここ数日は半数以上の生徒が暗くなるまで残っている。
一年に一回の大イベント、文化祭が近いからだ。どのクラスでも展示物や出店の準備に取り掛かっている。
それはもちろん、自分達のクラスも例外じゃない。
「文化祭、楽しみだなぁ! 俺らはただの喫茶店だけど、逆に良かったかもな。休憩いっぱい取れるから他のクラスを見て回れるし!」
放課後の教室で、智紀は指を鳴らした。必要な物品をリストに上げながら、隣に立っている夕夏に笑いかける。
「喫茶店って言えば聞こえはいいけど、ただの休憩所だよ。ベンチ用意して、適当にペットボトルを渡せばそれで良いんだ」
「文化的要素ゼロやん……もうちょっとテンション上げろよ、夕夏。お前のモチベの低さは周りに悪影響を与えるぞ」
キスをしようが何をしようが、相変わらずのやり取りだ。周りにクラスメイトがわんさか居れば尚のこと。
智紀がため息混じりに諭すと、夕夏は両手を叩いてドアの方へ向かった。
「そういえば用事思い出した。生徒会室に行ってくる」
「……大丈夫か?」
生徒会室と聞いて、智紀の顔がわずかに強ばる。
夕夏はそれに気付いたものの、あえて触れずに手を振った。
「仕事だよ、仕事。クラスの方をサボろうとしてるわけじゃないから。……すぐ戻るから、心配すんな」
そう言うと彼の表情が和らいだ為、こっちも安心して廊下へ出る。夕夏は狭い歩幅で生徒会室へ向かった。ドアを開けると、ソファに寝っ転がっている少年がひとり。
「お。おつかれじゃん、夕夏」
真弘だ。何かのプリントを高い位置に翳しながら読んでいる。ドアを閉めて奥へ進むと、彼はゆったりとした動作で上体を起こした。
「夕夏。文化祭の開会式のプロモーションビデオどうなってる? 綿貫が主演なんだろ?」
「あぁ、先生達をもっと知ってもらおうってスタンスのインタビュー映像な。順調に進んでるよ。礼儀を知らない綿貫が失礼な質問ばっかりしてどやされてる」
「えぇ……」
真弘は苦い顔で持っていたプリントをテーブルに置く。しかしその反対に座っている夕夏は脚を組んで彼を睨んだ。間に流れる空気も冷ややかな色に変わる。
「まっ、それは何とかなるよ。それよりも綿貫で思い出した。この前はあいつを使って俺をハメようとしたみたいだな?」