「ちょっ、夕夏っ!」
慌てて彼の後を追いかけるけど、廊下へ出ようとした瞬間、逆に誰かが部屋の中に転がり込んできた。
いや、ほとんど夕夏に突き飛ばされるような形で倒れた。……それは、俺もさっき会った人物で。

「綿貫君……!」

生徒会の綿貫だった。夕夏は彼のものらしきスマホをいじった後、忌々しそうに吐き捨てる。

「綿貫、俺を盗撮するなんて立派になったな。感動したよ。感動のあまり手に力が入って、このスマホ割っちまいそう」
「うわああぁぁ、それだけはやめてください! ごめんなさい、俺が悪かったんで許してください!!」

綿貫は床に膝をつくと、そのまま土下座した。傍から見ると三年生二人が一年を跪かせている、最低な図だった。
でも今は悠長に構えている場合じゃない。自分の為にも夕夏の為にも、写真を消させて事情を訊き出さないと。

「綿貫君は俺達が付き合ってることを知ってたよね。その上で写真を撮るなんて、何するつもりだったの?」
「あっ……いや、その……」

智紀の問いに、彼は気まずそうに汗を流す。いつまでたっても答えないことに痺れを切らし、夕夏は窓の方へ歩いた。そして窓の外へ腕を伸ばし、親指と人差し指でつまんだスマホをぶら下げる。
「はー、こうしてるの案外疲れるな。スマホを落とせば楽になるかな……」
「待って待って! それはだめです、お願いします!」
ここは五階。落とせばスマホは木っ端微塵だ。可哀想だと思ったけど、彼の目的が知りたいので黙ってることにした。

「綿貫、本当のことを言え。でないと人前で出られない顔にすんぞ」
「あっ……はい。でも、うぅん……あぁ……」

いつも思うけど、夕夏の脅し方は容赦ない。
綿貫は頷いたり俯いたり、泣きそうな顔で呻いている。とにかく答えることに躊躇っていたけど。
「ふん。どうせ真弘の差し金だろ? あいつに、俺達の仲をぶち壊すように言われてるんだろ」
夕夏が言うと、綿貫は目を見開いた。

「あ……ご存知でしたか」
「そりゃ、俺と智紀が付き合ってんのをお前が知ってること自体おかしいし。真弘は耳聡いからな」

スマホごと腕を引っ込めて、夕夏は綿貫の方へ歩く。そして彼に手渡した。
「変なこと吹き込まれて、俺みたいになるなよ。もうカップル捜しもしなくていいし、普通に生きてろ」
綿貫は静かに頷いて、しゃがんだまま目元を擦る。そこは微かに光っていた。

「七瀬先輩に須賀先輩……本当にごめんなさい。……もうこんなこと絶対しないって約束します」