「そういうことは思ってても言うなよ!!」
夕夏の顔は火がついたように赤い。照れてるようだ。
「はは、ごめん。でもすごい嬉しいからもう一回して?」
無茶なお願いだと思ったけど、ダメもとで手を合わせる。
「してくれたら、俺はその倍お前にキスする!」
どういう交換条件なのか自分でもよく分からないけど、彼は少し考えてからもう一度キスしてくれた。
すごい……俺、今恋人にキスされてる。
普通のカップルなら当ったり前のことだけど、俺達に限れば異常事態。あの悪辣な夕夏クンがこんなに可愛いなんて学校の生徒は誰も知らないし、俺だけが知ってればいいと思う。とか自惚れてしまう。
「ありがとう! じゃあ今度はお返しに俺の番な。どこにキスしてほしい?」
「そんなの聞かなくていい……!」
「照れんなよ。絶対どこかあるだろ。普段はしないような場所……例えば、こことか」
夕夏の首筋に手をかけ、吸い付くようなキスをした。気持ちいいかどうかは分からないけど、彼は大きく身体を揺らす。
吐息の混じった声でやめろと言ってる。でもその様子が新鮮で、さらに深いところまで暴きたくなる。薄い皮膚の上から舌を這わせただけで、彼はびくびくと震えた。
「夕夏、気持ちいいの?」
「ちがっ……お前の舐め方がやらしいから……っ」
「やらしいから、何だよ。つまり気持ちいいってことだろ」
くすぐったいって感じじゃなさそうだ。夕夏の声はさっきよりも甘く、息が篭っている。服もちゃんと着てんのに、変だな。……エロい。
どうしよう。もっとやりたくなってきた。
「ちょっと、智紀……!」
智紀は夕夏のシャツを第三ボタンまで開けて、胸の方に顔をうずめた。
「ほんと肌白いな、お前。でもここは赤いの」
シャツの奥に隠れた、ほんのり染まった突起。ここまで彼の肌を見るのはやはり初めてで、否が応でも期待が高まっていく。
彼の反応が見たい。そう思って、同じように舌を這わせようとした……そのときだった。
カシャッ、というシャッター音。
部屋の中ではなく、廊下からだ。おまけに「やばっ、無音にすんの忘れた」という声が聞こえた。
人がいたのか……!!
一気に現実に戻って、身体の熱も冷めていく。
不安と焦燥に駆られる智紀とは正反対に、夕夏は衣服を整えたあと廊下へと飛び出した。