地球の裏側までドン引きしてると、七瀬は眉をひそめた。
「謝れ? ハッ、何一つ謝る要素ないけど?」
「ある。お前、さっきあいつに存在が迷惑って言ったろ? あんなこと言われたらどんな気持ちになんだよ」
智紀自身驚くほど、説教じみた言葉を掛けてしまう。
七瀬はあからさまにイラついた態度で、テーブルの脚を加減なく蹴り飛ばした。

「いきなり入ってきてギャーギャーギャーギャー……転校生だから優しくしてやろうと思ったけど、あんまり調子のんなよ」

ホントに、どこまでも上から目線……!!
というか、正直あまりの変貌ぶりに怯んでしまう。二重人格者みたいで普通に怖い。

でもそんな素振りを見せたら、こいつはもっと調子に乗る気がした。ムカつくし、とにかく言い返さなきゃ。
「その言葉そっくりそのまま返すっつーの! 何なんだよお前……! 俺も別にゲイじゃないけど、あそこまで言えないし……何か理由でもあんのかよ?」
「……」
すると、彼は少し黙って。
「理由……なんかねえよ。気に入らないだけ」
先程までと打って変わり、声に覇気がない。
理由ありますって言ってる様なもんだ。嘘下手か。
急に大人しくされると調子が狂うな……。

「七瀬はさ……恋愛とかしたことないわけ」
「はぁ?」
「性別がどうとか関係なしに。両想いの奴らの仲を引き裂くのって、人を本気で好きになったことない奴がやんじゃないかな。……って思って」

色んな意味で、かなり際どいことを言った。でも返答がない。怒ったのかと思って目を細めながらチラ見する。その瞬間、息を飲んだ。
怒ってるどころか、七瀬はさっきより悲しそうな顔をしていた。
いややっぱり、悲しそうというか、 ……苦しそうな感じで。
思わず謝りそうになったけど、ここで謝ると今までの自分を否定しかねない気がして、とりあえず空気と同化することを選んだ。気まずい。

何だろうな……。

七瀬はおかしい。でも何かが胸に引っ掛かる。
正体不明の動悸を抑えながら、しばらく天井を眺めていた。