あれからはや二週間。夕夏とは健全なお付き合いが続いた。
どれぐらい健全かって? キスもしてないよ! 健全でしょ?
「これが普通なのかなぁ……」
「どうしたの、智紀。珍しく元気ないじゃん」
廊下で項垂れてると、横から弥栄が顔を覗かせてきた。そしてニヤニヤしながら恋煩い?とつついて去っていく。
お黙り、と思った。俺と夕夏の仲は、もう“恋”じゃない。正真正銘の恋人同士で、この関係を言い表すには“愛”とたとえるのがしっくりくる。
でも未だに手を繋いだり肩をぶつけたり殴り合ったりするのが限界だ。キスは、俺が告白した時以来(あれは無理やり)─────。
こんなんで本当にカップルと言えるんだろうか。
不安になるけど、急いじゃいけない。夕夏は昔男に襲われかけて心に深い傷を負っている。下手に手を出そうもんならもっと彼を傷つけてしまう。それだけは絶対避けたかった。
むしろ夕夏が望まないなら、今の関係のままでいいのかもしれない。一緒に遊んで、ご飯食べて、たまに手を繋ぐだけの関係で……。いわゆる、その、プラトニックみたいな。
「あーあ、彼氏とエッチしたいなぁ~。……って顔ですね」
「えっ!?」
今まさに、俺の心の中を見透かしたような声が聞こえて飛び上がった。振り返った先には、見知らぬ生徒。でも上履きの色が違うから、下級生に間違いない。
彼はさっきの爆弾発言をしておきながら、何故か気まずそうに咳払いした。
「えーと、須賀先輩ですよね。俺、一年で生徒会の綿貫といいます」
「あ、はぁ……」
生徒会。ってことは夕夏の後輩か。そんな子が何で俺のところに……じゃなくて、何で俺の心を読み取ってんだ。
しかも今、“彼氏と”って言った。俺が夕夏と、……男と付き合ってることを知ってる。
「俺に何か用?」
「そんな怖い顔しないでください。俺は七瀬先輩にお世話になってるんですけど、どっちかっていうと貴方の味方なんです! だって、ほら……あの人って横暴で我儘でしょ? 学校にどれだけ敵作ってるか把握すんのはテスト勉強より大変ですよ」
綿貫君は身振り手振りで夕夏のことを話し出した。この子は、あまり夕夏に良い印象を持ってないみたいだ。
「貴方の為に言わせてください。七瀬先輩と付き合ったみたいだけど、別れた方が良いですよ。あの人は結局自分の考えが最優先で、いざとなったら恋人だって簡単に切り捨てられますから」