まさか朝一番でそんな告白をされるとは思わなかった。何だか心臓が痛くて自分の胸を押さえる。
動悸かと思うほど速い鼓動を抑えながら、智紀は何とか昼休みまで乗り切った。それでも未だに、底なしの幸福感に包まれて苦しんでいる。売店でお昼の弁当を買い、夕夏と中庭に来てからも呻き続けていた。
「うぅ……どうしよう、まだメチャクチャ嬉しい……お腹いっぱいで、とても入る気しないよ。夕夏、この弁当食って。そんで持ってたら胃腸薬くれ」
「お前……大丈夫か? むしろ病院行くか。頭診てもらえ」
夕夏と恋人同士になれたことが嬉しくて、智紀は完全におかしくなっていた。その隣で、夕夏は冷めた様子で弁当を食べている。
「俺と付き合えたことがそんなに嬉しいのかよ。何回も思うけど、本当に物好きだよな……俺みたいに口が悪い奴を好きになるなんて」
「お、口悪いって自覚あるんだな」
「あるよ。当たり前だろ」
夕夏は振り向くと、卵焼きを箸でつまんで智紀の口の中に入れた。
「お前って本当に単純。でも多分、俺もお前のそういう所が気に入ってんだろうな」
「んん……単純?」
「あぁ。馬鹿なガキほど可愛いってやつに近い」
「悪口はやめろ!!」
慌ててツッコむが、夕夏は澄まし顔で弁当に箸をつける。そして早く食べろよと催促した。
「五時間目、体育だから着替えなきゃやばいぞ」
「あ、そうか。腹が減ったら戦はできないよな。やっぱり食べる!」
「単純だな……」
結局、智紀は夕夏よりも早く完食した。
午後の授業、体育も無事に終え、二人は教室で寛ぐ。帰る前にジュースを買って、少し休むことにした。
「あぁ~! 待ちに待った放課後だ~! おーしどうしてやろうかな……! なぁ夕夏、久しぶりに猫カフェ行く?」
「あぁ。それもいいけど、お前ここら辺で遊べるところ知らないって言ってただろ。カラオケとかボーリングとか、良かったら案内するけど」
思いがけない誘いに、俺のテンションはマックスになる。
「いいねー、行きたい! 案内頼む!」
「じゃ、行くか」
即決して学校を出る。電車を乗り継いで、けっこう遅い時間まで遊べる所を教えてもらった。
これはただの友人としてだ。恋人とは到底言えない付き合い。……けど、それでも良かった。
初めて、彼と同じ心で笑い合えてる。それが分かっただけで、本当に嬉しかった。