暦の上では秋。長いようで短い夏休みが終わった。
新学期、今はすっかり慣れた通学路を突き進む。まだ眠気に負けてる状態だったけど……見覚えのある後ろ姿を見つけたとき、思わず駆け足で追いかけてしまった。
「夕夏! おはよっ!」
「……おう」
軽く背中を叩くと、目の前の少年は振り返った。その顔はいつもより落ち着いていて、いつもより笑ってる。
それがたまらなく嬉しかった。歩く速度を落とした夕夏の隣で、智紀は笑顔で鞄を持ち直す。
「今日から新学期だな? まっ、改めてよろしくな!」
「あぁ。改めて……」
夕夏は智紀の言葉を反復すると、急に立ち止まった。そして周りを少し見回して、何かを確認している。
「夕夏、どした?」
「夏休み中、一ヶ月まるまる使って考えたんだ。で、結論が出た」
「う、うん……?」
何のことか分からないものの、笑顔をキープしたまま頷く。すると、夕夏は軽く咳払いして手を差し出した。


「待たせてごめん。まだ、こんな俺でも良いと思ってくれてんなら……俺と、付き合ってもらえる?」


透き通った声は、頭の中で反響した。
もちろん、困惑もした。聞き間違い……じゃないか。寝起きだからボケてんじゃないか、とも考えた。
でも目の前で頬を赤らめている夕夏を見れば────それが聞き間違いではないことが容易に分かる。智紀は数歩後ろへ後ずさり、近くの木に手をついた。

「うっ……嬉しい。何にも答えてもらえず夏休みに突入しちゃったから、俺の告白なんて絶対忘れられてると思ったのに……ちゃんと考えてくれてたんだ……!」
「そりゃ、な。当たり前だろ」

夕夏はそっぽを向いて、腕を組む。彼も顔が真っ赤で、智紀のオーバーアクションにツッコむ余裕はなさそうだった。
「お前やっぱ良い子だな……須賀君感激」
「それで、どうなんだよ。後はお前次第。もう俺に愛想が尽きたって言うなら、それはもちろん受け入れるから……」
「冗談よせよ!! やっっ…………と想いが通じ合ったんだ! 逃げられると思うなよ!」
智紀はすぐに振り返り、夕夏の片手を握った。

「だから……! 俺と、付き合ってください!」
「はいはい。よろしくお願いします」

真剣に訴える智紀とは対照的に、夕夏はいつもの薄笑いで目を伏せた。温度差の激しい二つ返事。

あの放課後の告白から夏休みを挟み、一ヶ月後。
新学期を迎えた一日目に、二人は晴れて恋人同士になった。