“存在が迷惑”。
その言葉は、……言葉では表せないほど怒りを誘った。
「おい、そんな言い方ないだろ!」
勢いって怖い。気付いたらドアを思いっきり開けて、自ら出陣してしまった。二人の視線を受けてから「こっち見ないで」ってちょっと思ってしまった俺はチキンだろうか……。
けど、案外動揺が大きいのは俺より七瀬の方だった。
「智……紀、何でここに?」
「道に迷ったんだ。帰り方分からなくて困ってんだけど、これだけは分かる。お前は人として言っちゃいけないことを言ったんだ」
びしっと指さして言い放つと、彼は先程と同じ無表情に戻った。
「あ、そう道に迷ったんだね。部屋出て突き当たりを右に曲がると音楽室が見えるからそこを」
「待った! 道はとりあえず後で……! それより何やってんだよ、離してやれって!」
近くまで駆け寄り、力ずくで七瀬を少年から引き剥がし、押さえ付けた。手加減は一切できなかったけど仕方ない。
「こんなことされたら痛いだろ! 嫌ならお前もこいつに謝れって!」
変な話だけど、俺が思ってるより俺は怒ってたらしい。
「……っ」
綺麗な顔を歪ませる目の前の彼への罪悪感は少しで、後はいかにして謝らせるかってことばかり考えていた。
「どう? 謝るなら離すけど」
「……い…」
七瀬が何か言いかけた瞬間、
「くそっ! ふざけんな!」
解放された男子生徒は、生まれたての小鹿の様な足取りで走り去って行った。
最終的に部屋に二人だけ取り残される。自分が勝手に乱入しただけなんだけど、こんなに虚しい気持ちにさせられるとは。
「離せ! もういいだろ、いないし!」
パンッと手を払い除け、七瀬は乱れた襟元を直した。こいつはこいつで反省の色ナシみたいだ。
くっそー。ここはガツンと言ってやらねば。
「おい、これで終わりだとか思ってないよな?」
「思ってねえよ? ちゃんと別れたかどうか見届けるまでは許すつもりないから」
「じゃなくてっ! 後でもいいから、さっきの奴にちゃんと謝っとけって言ってんの!!」
息切れしながら叫んだ。
こいつ、こんなに言葉が通じない奴だったなんて。
口も悪いし目つきも悪い。
性格も悪いし手癖も悪い。最悪じゃねーか!