「……そろそろ教室戻るか」

相変わらず静かな裏庭で、夕夏の声だけが響いた。
けど、正直言ってまだそんな気分じゃなかった……智紀は深呼吸をして、後ろの壁に寄り掛かる。
「いいじゃん。授業はちゃんと出たんだし」
つまり、戻らないということ。
「クラスの連中に不審に思われんだろ」
「いいじゃん、思わせとけば」
「よくはないだろ」
それから、また暫くお互い無言になる。それもいつしか当たり前になって、気まずさは全くなかった。でも。
「やっぱりもう戻ろう」
夕夏は立ち上がり、智紀に向かって手を差し伸べた。
しかし智紀はそれを一瞥するだけで、手をとらない。
「なぁ、戻るのはいいけど……その前にさっきの話の返事聞かせて」
「え?」
夕夏は瞬きを繰り返す。これはスラッとぼけてるんじゃなくてガチで分かってない気がする。何度も言うのは恥ずかしかったけど、仕方ないからもう一度言うことにした。

「お前のことが好きだって話」

一拍置いて告げると、夕夏はまた倒れるんじゃないかと思うぐらい真っ赤になった。
「その話まだ続いてたんだ!?」
「勝手に終わらせんなよ! てかお前が急に他の話するから待ってたの!」
「………」
何故か、夕夏は驚いた顔でこっちを凝視してる。
「俺はてっきり諦めたと……」
「え?」
上手く聞き取れなかったから少し近付くと、ぽつりぽつり呟きが聞こえた。

「こんなキモい話すれば、大抵の奴はドン引きするだろ。好きなんて気持ちもなくなる……と思ったんだけど。智紀は、まだ俺のこと好きなんだ?」

そろそろと後退るような声。でも即答できた。

「好きだよ。大好き」
「ちょ……声でかい」

今さら恥ずかしがることもないと思うんだけど、夕夏はまた周りを見回した。
「大丈夫だって。たとえ同性愛者だってバレても、俺が守ってやる。一年の時とは違うよ」
「簡単に言うな。別の意味で違うんだよ、今は俺も周りから恨みを買ってる」
智紀は依然立ったままの夕夏を見上げる。

「第一俺がお前と付き合ったら、今までゲイのカップルを潰し続けてきたのは何だったんだってなるだろ」
「それな~。実際何だったんだよ」
「不幸になるに決まってるからだよ! 自分が同性愛者だって、どう証明できる!? 騙されてる可能性の方が大きい。俺みたいに……っ!!」