ひたすら廊下を歩いていた。だが校舎の端、終わりがきてしまった。屋外に出たので、誰もいない裏庭の方を見渡す。
もちろん目的地はここじゃなくて、保健室だ。けど俺は保健室の場所なんか知らない。そんなこと、俺も夕夏もとっくの昔に気付いていた。
ただ止まりたくなかっただけ。
お互い気付かないふりをした。

「男が好き……か」

夕夏は長い時間を置いて、吐息混じりの声で呟く。
「何でそれが、俺にしかできない相談なの」
「……うん」
それに応えるのはかなりの勇気が必要で、迷いまくった。けど外の空気を吸って、まず自分を落ち着かせた。
それで後は、思ったことをそのまま言う。行動あるのみ、というか……。彼に初めて会った時からそうしてきたように、ただ想いを紡いだ。

「お前が好きなんだ。男が好きかもしれないとか、それはホントはどうでもよくって、単純にお前が好き。……だからすげー困ってるんだよ! 朝も夜もお前のことばっか考えて、テスト勉強もままならないし、このままだと受験どころじゃない!」

流れる、暫しの沈黙。
それを打ち消して聞こえてきた夕夏の声は、期待を裏切らない冷たさだった。
「最後のは絶対当て付けだし。真顔でそんなこと言って恥ずかしくねえの?」
「恥ずかしい」
夕夏の問い掛けに即答した。じゃ言うなよ。って顔をしてるけど、そこは察してほしい。
「その、恥ずかしいけど……お前に気持ち悪いって思われる方が怖いよ。それでも告白した、俺の勇気を評価してくれない?」
「何で急に上から目線?」
正論という名のツッコミを受ける。聞こえないフリをしてると、夕夏はまた動き始めた。

「もう平気。下ろして」

どうしようか迷ったけど、だいぶ顔色は良くなっていたからお姫様抱っこはやめた。彼が微妙な段差に座ったので、とりあえず隣に座る。
「……そうだ、告白するのに勇気なんていらない場合があったな。真っ赤な嘘な。冗談の場合」
夕夏は閃いたようにに手を叩いて笑った。
でもこっちは笑えない。むしろ憤りすら覚えた。

「……まだ、俺が冗談で言ってると思ってんの?」
「さぁ……。怒んなよ。そういう場合もあるってこと」

そう言われても胸に引っ掛かる。茶化してると思われてるのか。
確かに、ゲイ嫌いだから仕方ないかもしれないけど。俺も自分が男を好きになるなんて思わなかったから。