「目眩?」
すぐに理解できなくて呆然としていたら、彼は口元を手で抑えた。
「もともと貧血気味で、出たくなかった体育に出て、トドメのお前の奇行はぶっ倒れるに充分ってこと」
「な……なるほど」
充分な説明に納得して頷く。でも奇行って……キスのこと? 失礼だろ。
「……大丈夫なの?」
恐る恐る尋ねると、夕夏は上手い具合に視線をそらした。
「微妙。ちょっと今は動きたくない」
だから先に教室に戻れ、って急かすように付け足してきた。でも、
「いいよ。倒れたのは俺のせいってことで、責任持って何とかする」
「責任って……うわっ!?」
智紀は肘と膝に力を入れて、とても無防備な夕夏をお姫様抱っこした。けど予想以上に軽くて、逆に落としそうになる。
「何すんだよ、下ろせ!」
「立てないんだろ。保健室まで連れてってやるから心配すんな」
「嫌だっつーの! こんな状態でっ……冗談抜きで下ろせ!」
暴れることで触れる彼の腕が、またさっきより熱くなってる気がする。

「智紀っ!!」
「あ~、わかったわかった……そんな怒んなって。見られなきゃいいんだろ。心配しなくてもまだ授業中だから誰にも会わないって」

何とか笑顔で答えると、夕夏はあからさまに嫌そうな顔でため息をついた。
「そうじゃなくて、お前に借りを作りたくないんだよ。また何かに託けて、あの奇行の続きを強要するつもりだろ」
「そこまで性悪じゃねえよ! あとキスを奇行って言うな!」
「奇行だよ。それでなきゃ愚行」
「お前ねえ……」
すごく子どもじみた口論が勃発してる。さっきまでの、子犬みたいに怯えてた感じはどこ行ったんだか。
ぐるぐる考えながら、結局抱っこしたまま歩く。
でも、ちょっと大人しくなったか。何もない直線の廊下を歩いて、人の気配が無いことを確認する。
夕夏は、少しだけ身をよじった。
「……」
こんな風に、温もりが心地よく感じたのはいつぶりだろう。
思い出せない。多分それはずっと前で、時間と一緒に薄れてく程度のものだったから。
────でもこれは違う。

「なぁ夕夏。相談があるんだけど。 お前にしかできない相談」
「何だよ」

相変わらず仏頂面でいる夕夏に苦笑した。
ああ……。
……本当、変わらなすぎる。

「男が好き。って言ったら、やっぱりまずいかな?」