珍しくしおらしい彼の態度に無意識に集中していた。

「だからありがとう。今日とか、すげえ助かったよ。……智紀」

そう言った時の彼は今までで一番良い笑顔で。動きはもちろん、思考が停止した。───これまでの苦労が吹き飛ぶくらい見惚れてしまった。
頭がグラグラする。これは多分、疲労のせいだけじゃない。やばい、こいつ。

可愛い……。

と思ってしまってる自分がいる。
それは仲の良い友達とか、後輩に抱く感情とは違う気がした。多分、もっと深いところにある何かだ。
これはもしかすると……。
「いやー、お前がそんな素直だと反応に困るなぁ。もしかして俺に気がある?」
「えっ?」
夕夏は驚いて立ち止まったけど、ただ赤くなるだけだった。
「え?」
そのせいで俺も同じ声を出した。

「…………」

お互い喋るタイミングを完全になくした、としか言いようがない。でも何で。何で黙るんだよ。
何か言え、頼むから。もちろん俺もだけど……俺は仕方ないってことにしよう、うん。質問したのはホラ、俺の方だし!
だっておかしいだろ。黙る理由なんて何もない。でも、もしあるとしたら……?

ピンときたのは一つしかなかった。後のことなんて何も考えず、アホな俺は思ったことをそのまま口に出す。

「あれ、否定しないってことは……本当に気があるの?」

周りには誰もいない。いたとしても、今の二人は気付かないかもしれない。
それぐらいに、お互いがお互いに目を離せないでいた。
「……答えないなら本気でそう受け取るよ」
正直な話、この一瞬すら焦れったくて。
気付けば初めて出会った日の様に夕夏を壁に押し付けて、身動きがとれないようにしていた。

「ち、ちょっと……!」
「返事は?」

さすがに彼も今の危機的状況に気付いたんだろう。
黙ってれば逆効果だということも。だから焦って否定してきた。
「違うよっ、俺がゲイが嫌いなことはよく知ってるだろ」
「まあなー。じゃあ抵抗して」
わざと冷たく言い放つと、夕夏はあからさまに困った顔をした。