───よし。今こそ、夕夏のガチガチに閉ざした心の扉を開けてやりたい。
そう思った智紀としては、早速行動に移りたくて仕方なかった。
「夕夏、今日の体育ほとんど自由って言ってたじゃん? どうせ皆まじめに動かないだろうから、お前が全部テキトーに企画しちゃえよ」
「何でだよ。絶対やだ」
冷めた返答にため息が出そうになる。いつも仕切るのが大好きなくせに、こういう所では消極的だなぁ。
「大丈夫だって、俺がいるから。今日一日は頑張ってみよう?」
夕夏は少し迷っていたけど、やがてため息をついて頷いた。
「どうなっても俺に怒んなよ」
「もちろん!」
同意を得て、二人一緒に教室へ向かう。その後の結果は……心配なんていらなかった。最後の授業の体育では、夕夏が決めたサッカーでクラス全体が盛り上がって終わった。
「ほーら! お前はやればできる子だと思ってたよ!」
思わず夕夏の頭を撫でまくると、彼は露骨に真っ赤になった。
「別に大した事してないじゃん。智紀の言う通りできるだけ喋っただけ」
「まぁまぁまぁ。それが大事!」
体育が終わり二人で校舎に向かう。途中、弥栄も話し掛けてきた。
「今日楽しかったよ~。七瀬も、久しぶりに一緒にゲームできて良かった。ありがとな」
「……こちらこそ」
夕夏は相変わらず素っ気ない態度だったけど、これでも彼なりに頑張ってるのかもしれない。
「じゃ、またな」
「おう、サンキュー!」
弥栄の後ろ姿を見送って、隣に並んで歩く夕夏を見た。
さんざん運動した後だから、すごく汗をかいている。何かちょっと、アレだな。
こういうの何て言うんだっけ。あんまり良くない方向な気がするけど……。
「何? 人のことじっと見て」
「あわっゴメン!」
普通に視線に気付かれてた。それに動揺して今度は自分の目が泳ぐ。距離感はもちろん、今まで気にもしなかったことで焦っていた。……会話が思いつかなくて困ってる。
「そ……うだ、どう? 一日頑張った感想は」
「言うほど頑張ってないけどね。でも、悪くないんじゃね」
夕夏は少し顔を逸らした。その横顔は、まだ少し赤い。
「お前が居たから楽だったんだと思うよ」