自分の言葉に耳を疑い、それから何としても前言撤回しなきゃと思った。
「あ、今のは……違うんだ、普通に冗談で」
慌てて言い訳しようとした。
でもそれより先に、智紀は俺の腕を掴んで引き寄せる。
「智……っ」
「分かった、言ってみろよ。絶対助けるから」
俺の思いつきにも近い言葉を真に受け、彼は真剣な表情でそう言った。
台詞としては軽々しい。なのに、あまりに頼りがいがある。受け止めてくれている。体も、心も……自分でも信じられないけど、ほんのちょっとだけ、惚れそうになった……気がする。
もしかして、俺……。
智紀のことが好きなのか?
そう思った瞬間、真弘に“惚れっぽい”と言われたことを思い出した。
そうだ、これは勘違い。そうに決まってる。優しくされたこと自体久しぶりだから麻痺してるんだ。
「おーい、夕夏。急にフリーズすんなって」
ペチッと頬を叩かれる。
「で、何があったの。何に困ってる?」
「あ、それは……」
言葉に詰まる。自分から言っといて、具体的な悩みが上がってこない。俺は結局、何に困ってるんだろう。
どう助けてほしいんだろう。
「悪い、……わかんない」
自分の気持ちすら理解してなかったのか。
馬鹿じゃん……。
こんなんじゃきっと智紀にも呆れられると思ったけど。
「そっか。じゃ多分、全部に困ってんだな。心配すんな、一つずつ解決してこうぜ!」
彼は呆れも怒りもせず、満面の笑みで頭を撫でてきた。
うわ。……やばい。
「ありがと……」
絶対おかしいだろ。どうしてそんなお人好しなんだ。
「どういたしまして。まだ何もしてないけど」
智紀はにこっと笑った。何かその笑顔を見るだけでも熱くなってくる。
「じゃ、今までのお前の学校生活を改めて! まずは人付き合いから直していこっか」
「いきなり? そこは別に困ってないんだけど」
「だーめ、お前は独りになり過ぎたんだよ」
普通に拒否ったけど、またしても彼に手を引かれて走らされた。一緒にいると疲れる。それは間違いない。
けどこの手を振り払えない。それどころか、彼といると何故か心強かった。
「夕夏。お前がどう思っても、俺はお前のこと友達だと思ってるから。いつでも頼ってこいよ」
彼の言うことは一々恥ずかしい。それがむず痒くてしょうがないのに、頷くことしかできない。
困った。
嬉しくてむず痒くて、今すぐ逃げ出したい。