本当は分かってる。
望んで独りを選んだって、その先には何も待ってないと。


「夕夏! おーはよっ」
「うわっ……智紀」

それでも、そんなすぐに変われたら苦労しない。
翌朝、智紀はいつも通り俺に話し掛けてきた(というかタックルしてきやがった)。そして何故か不安そうに呟く。

「あれ、お前顔色悪いぞ。寝てねーの?」
「あぁ。何か眠れなくて」
……じゃない! いつものペースに流されてすっかり忘れてた。
昨日の件を思い出して下唇を噛んだ。癪だけど、真弘の言うことには従っておこう。万が一にもないと信じてるけど、俺のせいで智紀に危害が加わらないように。
咳払いしてから、真っ直ぐに智紀のことを見返した。
「あのさ。悪いけど、あんまり俺に話し掛けないでくれる?」
「ハァ? またそんなこと言ってんの?」
確かに。このやりとりも何回目だろうな。
智紀の反応も分かるけど、こればっかりは仕方ない。

「やっぱり俺は、独りが性に合うから」
「お前……そんなこと言って許されんのは中二までだぞ!」

智紀は露骨に引いていた。
ごもっとも……でも、じゃあどうしろっつーんだよ。
せっかく人が当たり障りのない言葉を選んでるってのに、その苦労も知らないで。段々ムカついてきた。
「分かった、単刀直入に言うよ。俺はお前が……」
大嫌い。そうはっきり言おうと思った。なのに。

「俺が……何だよ?」
「……」

でも、そこから口が固まって、声を発することができなかった。智紀の心配そうな顔を見たら、やっぱり言えない。例え嘘でも。

嘘だってわかってても、既に胸が苦しい。

何でだろう。分からなくてモヤモヤ考えてると、智紀はすごい近くに顔を近付けてきた。
「何かあった? 顔色悪いよ」
それ二回目。って思いながら、何故か近すぎる彼の瞳にドキドキする。
「別に、何にも」
「いや、嘘だな。絶対何かあった」
しつこ……っ。
しつこい男はモテないんじゃないのか。
歩きながら卑屈に考える。何でこいつは、こんなウザ絡みしてくるのにいつもキラキラしてんだ。いや別にヒガミとかじゃなくて。
「夕夏?」
って、それはどうでもいいか。早く何か返さないと。
えーっと。

「俺、何か悩んでる……のかもしれない」

……ん!?
大変だ。今、確実になにか間違えた。