午後の授業も無事に終わり、今期初の放課後。クラスメイトと雑談をしてから教室を出たけど……せっかくだし、帰る前にちょっと探索してみるか!
早くもここの雰囲気に慣れ、ルンルンでひとり校内をウロついた。パソコン室や図書室たなど、色々覗くことができて万々歳、というところで。

道に迷った。

ベタベタなオチに我ながら恥ずかしい。
でも階段さえ見つかれば、下に降りるだけだからな。そんなに心配しなくても大丈夫だろう。
そう気楽に考えてた時、ダンッというものすごい音が真横の壁から聞こえた。
反射的にウワッと身を引いたけど、気になってまたその部屋に寄り、中をそっと覗く。そこには、
「……七瀬?」
床に寝転がる仰向けに倒れるひとりの男子生徒。
そして、彼の上に跨る七瀬がいた。

何? 喧嘩? ……いや、あの温厚な彼に限ってまさか。と思いつつさらに覗く。
でもよく見たら、七瀬が押し倒してるのは今朝見かけた生徒。康太君に告白するなと言って、激昂していた男子だった。何がどうしてあんな事になってるんだ。
ドキドキしてると、わずかに中の声が聞こえた。

「知ってるよな、稲川。ここで男の恋人を作るのは禁止。だってさ」

……あれ。
なんか昼間とキャラ百八十度違くないか。
つうか男に馬乗りして、アンタの方が今にも襲いそうな空気醸し出してるよ……!
嫌な汗がダラダラ流れるも、まだ状況が分からないから声を押し殺して見守る。すると、七瀬はさっきと変わらないテンションで楽しそうに話し始めた。

「とりあえず、さっさと別れてもらえる? 朝からアンタらの気持ち悪い口喧嘩を聞かされた子もいんだよ。ほんと、色恋に走った馬鹿は常識が抜け落ちるよな」
「そんな……男同士で付き合って、何が悪いんだよ! そもそもお前には関係ないだろ! 生徒会がそんな偉いのか!?」

いや偉くないよ。生徒会は生徒だから……と心の中でツッコんでみる。その間にも男子生徒は必死に抵抗していた。けどネクタイを強く引っ張られて苦しそうに呻く。
優しい奴だったのに、どうしてあんな真似を……いくらなんでもやり過ぎだ。
何かの間違いだと思いたいけど、彼は怖いぐらい綺麗な顔で笑っている。

「生徒会は関係ない。単純にムカつくんだ。男同士でイチャつく奴が存在してるだけで迷惑なんだよ」