「もしかして仲間外れにされて怒ってる?」
今は放課後。教室には自分達しかいないから、ちょっとだけ距離を詰める。
反応が見たい。怒るんでも、呆れるんでもいいから。
でも、待ちに待った夕夏の反応は“無関心”だった。
「何で俺がどうでもいい奴らのことで怒るわけ?」
「お、おう。そうだな」
彼にしては正論。どうしよう。
「うーん……なんだろ。俺もわかんない、けど」
すごい無責任な発言をしてしまったと思った。……でも。

「なんかな……やっぱり、お前はそのままじゃいけないんだと思う。余計なお世話かもしれないけど、もっと肩の力抜いてさ。気楽にいこうぜ」
「お前さ、何でそんなに俺にかまうわけ?」

話の内容には一切突っ込まず、夕夏は席を立った。妙なプレッシャーを感じる。まるで試されてるかのような。
「飽きもせず話しかけてくんのは尊敬するけど。俺みたいな奴に構うだけ時間の無駄だと思うよ。一緒にいても楽しくないだろ」
ひどく冷めた言葉だ。思わず、こっちもムキになる。
「いいや! 楽しい」
「何が? どこらへんが楽しいのか具体的に述べて」
「そういう面倒くさいことを言うところ」
「なるほどね。じゃあ俺の嫌いな所を言って。具体的に」
喧嘩じゃない。お互い、質問と回答を繰り返してるだけ。なのに何で、こんなにドキドキすんだろう。夕夏の責めるような目つきから、……怯えるような手から、目が離せない。
見てるこっちが不安になる。でも、これだけははっきり言えた。

「ないよ。苦手なところなら一杯あるけど。……お前は、本当は優しいじゃん」

俺達はまだ会って日が浅い。だからこそ昨日のことのように、鮮明に思い出せる。男子校に入ったことを嘆いた時は励ましてくれたし、不田澤に襲われかけた時は助けてくれた。あれは、実はかなり嬉しかった。
率直な気持ちだ。それ以上に上手く表せない。
そして何回思い返しても、きっと色褪せることはないだろう。
「案外良い奴じゃん。夕夏」
俺としては、そう思うけど。
夕夏はさっきより困ったような顔で額を押さえた。

「その言葉そっくりそのまま返すよ。だから俺なんかと一緒にいないで、他の奴と仲良くなれって言ってんの。もっと普通に遊べる奴らとつるんで……でないと、もったいないよ。お前は」