「心配……なのかな、ハハハ」
笑って誤魔化すと、弥栄も同じように微笑んだ。
「多分そうだよ。俺にできる事なら何でも手伝うから言って。七瀬の、あの近寄り難い雰囲気をもうちょい変えたげようよ」
うっ、何だこいつ。めちゃくちゃ良い奴じゃんか。
「サンキュー。何か転校してから初めて、いろいろ話せた気がする」
感動のあまり目頭が熱くなる。智紀は目元を押さえて、弥栄にお礼を言った。
「ううん。俺こそ、智紀と話せて良かったよ。転校してきた日から、ずっと話してみたかったから」
「まじスか。いや、ありがとう」
何かそういうことを言われると急に照れくさくなる現象が起きてる。褒めても何も出ないよ現象と呼ぼう。
「さてと……明日テストだし、そろそろ帰ろっか」
「おう」
空が茜色に染まり始めた頃、弥栄と別れた。
最寄り駅へ向かう電車の中では、また凝りもせずに夕夏の事を思い出して。今度は彼を変えようと言ってくれた弥栄の顔を思い出した。
宙に浮くような、すごく変な気持ちだった。
まぁでも、嫌いじゃないんだよな。
嫌いだったらこんなしつこく関わろうとしない。何かほっとけないから、ついつい声を掛けちゃうんだ。
翌週、テスト期間に入った。
予想を裏切らず難問ばかりで、最後は神頼みをしながら授業終了の合図がかかるのを待ってた気がする。
「おぉ……!!」
そして無事に全てのテストが終わり、この学校で初めての答案用紙も返ってきた。手元にある採点済みのテストを見て、真っ先に夕夏のもとへ向かう。すごいことが起きたんだ。
「夕夏、俺のテストの結果見てみろ! すごくね? 全教科七十点台!! すごい統一感だよ! 何か嬉しい!」
机に並べて夕夏に見せると、彼は何とも言えない表情を浮かべた。
「平凡だな。平凡過ぎてコメントに困るけど。嬉しいんなら良いんじゃないか?」
「あぁ。赤点の心配なかったよ。お前と弥栄のおかげだな。サンキュー!」
そう言うと、夕夏の顔はわずかに曇った。
「なんだ、やっぱ弥栄にも教えてもらってたんだ」
「おう。良い奴だったよ。あと教え方も上手かっ」
「ふーん。……そりゃ良かったな」
あれ?
声とか態度はいつもと同じだけど、怒ってる気がする。確か、前も弥栄のことで急にキレたな……と思い出して、テストは鞄に仕舞った。