「それにしても、みんなホントに頭良いよなぁ。編入試験もめちゃくちゃ難しかったし、正直これから一年も自信ないや」
「そうなの? でもすごいじゃん、こうして受かってるわけだし!」
弥栄は笑顔でハイタッチしてきたんで、とりあえず乗った。……そんな風に励ましてもらったのも転校して初めての事だったから、すごいホッとした。
「それにさ、勉強以外だって智紀はすごいじゃん。すごい良い奴なんだろうな、って皆言ってるよ」
弥栄の言葉に心当たりがなくて、思わず首を傾げる。

「良いって、何が?」
「ほら、あの七瀬と仲良く話してるだろ。よっぽど心広い子なんだろうなーって」
「全然、むしろ狭いよ! それに、夕夏って意外と面白い奴だよ? めんどくさいかもしれないけどさ、ちょっと話してみたら……」
「いや、俺達そこまでいけないんだよ。あいつって無駄話しないから。てか名前で呼んでるんだ。やっぱりすごいな!」

弥栄は椅子に深くもたれかかってジュースを飲んだ。
「名前ぐらい普通だろ?」
「いや、そういうのも嫌いそうだからさ。一年の時はもっと明るくて、普通だったと思うんだけどねぇ」
弥栄の話を聞いて、まぁまぁ納得した。

「七瀬を名前で呼んでんのなんて、生徒会の副会長ぐらいじゃないかな?」

彼は軽く首を捻る。
……ああ、そういえば俺以外の皆は、昔の夕夏を知ってるんだ。彼を知らないのは、転校してきた自分だけ。
智紀は頭の片隅で考えて、両手を握った。
「あのさ、七瀬って昔はどんな感じだったの?」
「えー。いや、普通に……目立たないけど、明るくて友達多かったと思うよ」
へぇ……。
良かった、昔からあんなんキ○ガイじゃなかったのか。

「でも勉強できるイメージでもなかったなぁ。部活やってたからだと思うけど、一年の時はまだ俺の方が総合点上だったから。というか部活辞めたあたりからじゃないかな。七瀬が雰囲気変わったのって」
「そう……」

やっぱり、部活の話したとき変な空気醸し出してたもんな。あまり詮索しちゃいけないことかもしれないけど、気になってしまう。

「智紀は、七瀬のことそんなに心配なんだ?」

は。
夕夏を、心配?
弥栄の台詞はピンとこなかった。間違いではないけど、正しい気もしない。なら、俺が夕夏に抱いてる感情は何なんだろう。