翌朝、襲いくる睡魔と戦いながら夕夏は学校の門をくぐった。

昨夜が寝付けなかったせいで、今日はかなり寝過ごした。日課でもある早朝のカップル捜索ができず、二重で機嫌が悪い。この苛立ちを何かにぶつけたい。
本当は、“彼”にぶつけたい。このところずっと自分に付き纏う、あのバカ明るい転校生に……。

「おっはよーございます、七瀬先輩! いや~今日も麗しい限りで!」

鼓膜に突き刺さるような、幼くて高い声。その方に向くと、同じ生徒会役員で一年生の綿貫が元気いっぱいにやってきた。
さらには子どもみたいに無邪気な顔でジェスチャーを交えながら話し出す。
「実はですね、先輩。喜んでください! 俺また新しいゲイのカップル見つけたんですよ! どうします? 今から攻めに行きますか?」
何だか知らないが、その姿が“彼”に重なる。その瞬間、胸の中が熱くなって何かが切れた。

「うるさい、ひとりで行け! そんでさっさと潰してこい!」
「えぇ!? 俺は先輩の命令で捜してるだけなんですけど……!!」

ひとりじゃ無理です、と綿貫は涙目で後ずさる。まずい、思わず乱暴に当たり散らしてしまった。
一回頭を冷やそう。慌てて咳払いすると、後ろから誰かに囁かれた。

「こーら。後輩に八つ当たりすんなよ、生徒会長」
「真弘」

振り返ると、真弘が腕を組んで呆れていた。今のやり取りを見られてたようだ。
「荒れてんなぁ。あ、分かった。またあの転校生のことだろ」
「え、何の話ですか」
真弘の言葉に、綿貫がすかさず食いつく。これには参った。何とか忘れようとしてたのに、朝っぱらからあいつの話なんて耐え難い。
「あいつは関係ない! 勘違いすんな!」
「あらら、ムキになっちゃって。さらに怪しいなぁ」
しかし人を煽ることに関して真弘の右に出る者はいない。彼はニヤニヤして綿貫の頭を撫でている。からかわれてると分かってても、夕夏は歯ぎしりした。

「もういいよ、好きなだけ勘違いしてろ。あぁ、でも……綿貫、当分は俺ひとりでカップルを捜す。だからお前は部活と勉強に専念しろ。もうすぐテストも近いしな」
「えっ、先輩どうしたんですか!? 怖いです! 前はテスト当日もパシったくせに、何でそんな普通の人みたいなことを……」
「気が変わった。コーヒー買ってこい」
「先輩、俺優しい先輩が大大大好きです!!」