そして放課後。智紀と夕夏は向かい合って一つのノートにかじりついていた。
「で。多分ここまでが今回の範囲になるだろうと俺は踏んでる」
「なるほど……!」
テスト対策講座が開始してからちょうど一時間。主要五教科の範囲は大体教わった。夕夏はひと仕事終えた顔で教科書とノートを閉じる。意外や意外、本当にわかり易かった。
「お前、そんなに勉強できるなら皆にも教えてやればいいのに」
お世辞ではなく本気で言うと、夕夏は暗い面持ちになった。
「そんなん一々してらんねえよ。大体、俺に教えて貰いたい奴なんているわけないし」
「ハハハ、寂しいこと言うなよ。俺がいるじゃん!」
「お前は例外」
夕夏はまた呆れてるけど、実際もったいないと思う。何で彼は周りを跳ね除けるのか。一匹狼が似合うキャラでもないのに。

「夕夏は趣味とかないの?」
「ない」
「じゃ普段何して遊んでんの」
「そもそもしばらく遊んでない」

何だ、この珍種は。
勉強しかやる事がない、みたいなタイプか。いや違う。こいつは三度の飯よりカップル潰しに没頭する人間だ。
「はぁ。お前、それはだめだ。十代を損してるよ!」
「悪かったな。別に毎日に支障はないけど」
「いや、絶対駄目。受験前に爆発するぞ。……ってことで」
俺は教科書を机にしまって、席を立った。

「今から俺と遊びに行こ!!」

元気に提案すると、案の定夕夏は眉をひそめて吐き捨てた。
「冗談じゃねぇよ、何でお前と遊ばなきゃいけないわけ? 友達でもないのに」
「あれ、俺ら友達じゃなかったっけ……?」
「知らない」
彼は呆れ顔で席を立ち、鞄を手に取った。どうやらもう帰るつもりらしい。それでも最後の賭けで、彼の袖を掴んだ。
「まぁまぁ、遊ぼうぜ! 遊んでから友達になるのもアリだろ? でも俺、引っ越したばっかでここら辺で遊ぶ場所とか思いつかないけど……」
「……」
夕夏は少しのあいだ無言を貫いていたけど、やがて大きなため息をもらした。
「どこに遊びに行きたいわけ」
「ど、どこでもいいけど。俺はまず、お前が楽しめる場所がいいな。お前がすぐ凶暴なアクション起こすのって、ストレスたまってるせいだと思うんだよね」
そういう時はカラオケやボーリングでストレスを発散系か、カフェなんかの癒される系で別れる。夕夏は、どっちがいいかな……。