近くで囁くと、夕夏はまた少し赤くなった気がした。理由は分からないけど、この感じが面白くて繰り返してしまう。
それに、やっぱ近くで見れば見るほど美形だ。
ちょっとムカつくのと、何か少し熱くなる。褒めても揶揄っても、夕夏は必ず反応を返してくれるようになった。それもちょっと嬉しい。
何でこいつ、こんな弄りがいがあんのかな。
「もう俺に近付くなよ、ストーカー」
「ストーカーて……まぁいいや、お前って何でそんなゲイを目の敵にしてんの?」
ずっと気になっていた事を訊いてみた。
答えてくれないかも、と思ったら予想外の回答で、
「ゲイを……じゃなくて、ゲイの“カップル”を死滅させたいんだよ」
死滅……? 何それ怖い。
うーん、でもつまり。
「カップルを……てことは、やっぱりねたんでんのか。とことん可哀想な奴だな、お前」
「あぁ、もうソレでいい。仰る通り、カップルがウザいのは確かですよー。目の前でイチャつかれたら情緒不安定になって後ろから刺し殺してしまうかもしれません。そういった犠牲者を出さないために別れてもらってるんです」
クレイジーなんてもんじゃねえな。
大丈夫かな、この子の頭の中は……。
「そっか。そりゃすごいわ。ドン引きした」
「ありがとう。じゃあこれを機に俺と縁を切ってくれ」
嬉しそうに提案してきた夕夏を見て、ようやく意図を理解した。
その手には乗らない。ってことで。
「やだね。とりあえず安心しろ。これからはその病気みたいな考え、俺がなおしてやるから」
「それはかなりウザいな。キレるぞ」
「いいよ。お前となら毎日喧嘩しても楽しそうだし」
軽い気持ちで言った。いつもの売り言葉に買い言葉のつもりで。
「……何で」
……なのに、夕夏は辛そうに顔を歪めた。
「何でそんなこと言うんだよ。……俺は別に……」
───え?
夕夏がなにか言いかけた時、朝のホームルームを告げるチャイムが校内に鳴り響いた。
「やべ、遅刻じゃんっ!」
「あ……」
ボーッと突っ立ってる夕夏の袖を引いて、廊下を駆け出す。
「ほら、もっと早く走れって!」
彼を引っ張るコレも、もう何回目だよって感じだ。
不思議とこういう時の夕夏は大人しくついてくるんだけど……。
さっきの続きは、ちょっと聴きたかったな。