夕夏に対する興味は日に日に強まっている。
その一方で、智紀は戦慄していた。
やっぱり、彼を普通の基準で考えるのは間違いだったと気付いて。

「やぁ皆おはよう! 爽やかな朝にイチャついてるカップルがいるって聞いて思わず邪魔しに来たよ」
「こらこら! そんな直球に言っちゃう!?」

朝からざわめく教室、集まる視線。それらに耐え、智紀は素早く夕夏にツッコミを入れた。
今いるのは二年生の教室だ。何故三年の自分達がこんな所に来てるのかというと、理由はひとつ。夕夏君のカップル撲滅運動の為だった。
「さぁ、場所も選ばない不謹慎なカップルはどこかな」
「いないよ、そんなの! だから帰ろうぜ! 皆引いてるから!」
智紀は必死で説得を試みるが、手応えはゼロ。夕夏は今朝、開口一番「新しい情報が入った」と言ってこの二年の教室に乗り込んだ。
彼を行かせたら、一組の幸せなカップルが永遠に消される。智紀は何とか止めようと彼を追いかけてきた。
「アレ生徒会長じゃん」
「何しに来たんだ……?」
自分よりも、二年生達の動揺っぷりがハンパじゃない。
帰りたくなってると、夕夏はズカズカと教室の奥へ突き進んで行った。
「君達かな? 仲良そうにかたまってるけど」
教室の角の方にいる男子二人を、夕夏は追い込む様にして目の前へ立った。

「よし、どっちか一つ選んで。今の関係を断ち切るか、俺を敵に回してでも続けるか。後者の場合、何があっても大丈夫なよう心の準備だけはしといてね」
「は……!? 何言ってんですか……!?」

彼らは戸惑ってる。ホント、事情が分からない人間には頭大丈夫かって聞きたくなるカンジだ。
「君達、付き合ってんでしょ? そういう噂が広まってるよ」
「いや、……違うし、意味わかりませんから……」
少し歯切れが悪い。……やっぱり本当かな、と俺でも思ってしまった。けど。
「シラきるつもりならそれでもいいけど、俺もそれなりの手を使わせてもらうからね。もう二度と男と肩並べて歩けないぐらいの……」
「夕夏っちょっと来い!」
見事に話の途中だったが聞いてられない。
智紀は夕夏を引っ張って、何とか教室を出た。

「ホン……ットにやめろって! 可哀想だろ、あんな公開処刑!」
「何が?」
「クラスメイトがいる前で……! あの子達、これから気まずいまま過ごさなきゃいけなくなるだろ!?」