多分いつもそうだ。こうして本音で言い合えてる時は、勘違いかもしれないけど楽しそうに見える。彼は慣れてくると段々面白い。可愛い奴なのかも。
そうだ!
「なぁ、七瀬って下の名前何て言うの?」
「名簿で探せば?」
何で素直に答えられないんだか。でも、彼の名前を知らなかった自分にも驚きだ。今まで気にしたこともなかったもんな。
「もう、俺は最初に教えたじゃん。まさか七瀬って苗字じゃないの? 名前?」
「苗字だ。七瀬……夕夏だよ。これで満足?」
彼はやっと立ち止まって、目を合わせてくれた。
「ゆうか……って言うの? 女みて……じゃなくて、可愛い……じゃなくて、えーっと……綺麗でもなくて」
「フォローしようとすんな。無駄にムカつく」
彼の目力はやばい。睨まれたら思わず視線を外したくなる。それはそうと、まずいぞ。また怒らせたみたいだ。
「ごめんごめん。めっちゃ良い名前だと思う。これからは下の名前で呼ぶよ!」
「呼んだら殺すぞ」
「まぁまぁ、照れんなって! 夕夏はこれからどうすんだ? 帰るの?」
「呼ぶなっつってんだろうが。アンタの退部届け出したら帰るよ」
夕夏は手に持っていたファイルの中から、何故か俺の名前が綴られた退部届けを取り出した。何でそんな用意が良いんだよ。つうかそれは他人が提出して良いものなのか。
「でも、いいのかな。不田澤はともかく、歓迎してくれた部活の皆に悪い気がする」
「あ、そう? 掘られたいなら止めないけど。俺はあくまで責任感で動いただけだから」
「掘られたくはない。顧問の先生にも申し訳ないけど、……そうするか」
彼から退部届けを受け取り、ため息をもらす。でもこいつ、そこまで考えてくれてたのか。
一応は俺の為と思って部活を紹介して……だから本当は、こいつが悪いわけじゃないのに。
かといってゲイの部長が悪いわけでもないんだ。
同性が好きとか、それは生まれつき備わったホニャララで、彼を責める理由にはならない。
「恋愛って難しいな……」
思わず、ボソッと呟いてしまった。
「ハナから恋愛なんてするからいけないんだよ」
「そんなこと言ったって、好きになっちゃうのはしょうがないだろ」」
彼の辛辣な言葉に思わず言い返す。これは何かの受け売りかもしれないけど、やっぱり信じたい。
「誰かを好きになんのは、絶対に悪いことじゃないよ」