大体、さっきから彼の重みで足が痺れはじめてる。だから理不尽さに抗議すると、彼はハッとした様子で俺からどいた。少しバツが悪そうに、体についた埃を落としている。
「……ほら」
それから、手を差し出してきた。
「おぉ。さんきゅ」
その手を掴んで立ち上がる。今までで一番、彼を近くに感じていた。
不田澤といた時は鉛を背負ってるみたいに重たい気分だったのに、今は面白いぐらい軽い。自分の楽天的な性格が怖いぐらいだけど、ここは全部ポジティブに受け止めよう。それによって襲われたトラウマも解消できる気がする。
そう。俺はオトコに求められるぐらい魅力のある男なんだ! いやぁ、すごい。嬉しくない。
「あのサッカー部の部長、不田澤はやばいんだ。気に入った部員はすぐに手ぇ出すド変態なんだと」
「そうなんだ。知らなかった」
いや、知りたくなかった。
「お前をサッカー部に連れてったときは、俺も知らなかった。だから礼はいらない。結果的には俺がアンタを危険な目に合わせたから」
「でも、助けに来てくれたじゃん。俺すごい安心したし、来てくれたのがお前で嬉しかったよ。ありがとう」
「だ、だから礼はいらないって言ってんだろ。ほんっとーにお前は……襲われても仕方ない性格してんな」
「それは何? 褒めてんの?」
「褒めてるよ!!」
そう吐き捨てて、彼はさっさと歩き出してしまった。
慌てて後を追いかける。

「あのさ、七瀬。これからも一緒にいようぜ。部活で忙しくなって、俺ちょっと分かったんだ。お前がひとりでいるとこ見るの、やっぱり何か……つまんないからさ」

あれ。俺何言ってんだろ。
我ながら意味不明な発想。だと思うけど、こいつをひとりにさせたくないってのは、多分本音だ。
「それに俺はお前の本性知ってるし、気を遣わずに話せるから楽だろ」
「あ? 本性ってなんだよ」
「優しくて大人しい優等生気取ってんじゃん。実際は暴力推進会長なのに」
言いたい放題だと思うけど、彼の肩を押して笑いかける。
「俺には本当の気持ち、正直に言っていいんだぞ。大丈夫、誰にも言わないから! 命懸ける!」
「……俺、アンタみたいなおせっかい野郎が一番嫌いだわ」
口は悪い。でも言葉の荒さとは対照的に、七瀬の表情は柔らかかった。