「須賀智紀君か。編入試験のときは用事があって、立ち会えなくて悪かったね。俺は君がこれから過ごす二組の担任、笠置だ。これから一年よろしく!」

朝の職員室で元気良く挨拶する、これまた若い男の先生。簡単な自己紹介を済ませ、朝礼に向けて二人で教室へ向かう。
この人に受験とかで色々お世話になるのかな、と考えて歩いていた矢先。
「なあ。お前、康太に告白したんだって?」
「……してたら、どうだって言うんだよ」
ちょっとピリついた空気を放つ、二人の男子生徒を見つけた。内容は恋愛のいざこざだと、瞬時に想像できる。早歩きの笠置はすんなり通り過ぎたが、何となくきになった智紀は歩く速度を落とした。

「俺とあいつ、前から付き合ってんだよ。だから諦めてくんね?」

おお。なるほど、そういう感じか。
なんて息が詰まりそうな会話なんだ。
「康太ははっきり言えない奴だから、代わりに俺が言うことにしたんだよ。わかったら、もうあいつに近付かないでくれ」
ええっ、そこまで言うか。クラス一緒だったら近付かないとか無理じゃね?

それに何かいたたまれない。その康太君とやらに彼氏がいるって知ってたら、彼も告白なんてしなかっただろうに……。
「……ん?」
ちょっと待て。ここは男子校だから男しかいないはず。 しかも康太って、どう考えても男の名前だから。
「うわあぁぁっ!!」
「ど、どうしたの!?」
突然絶叫した智紀に驚き、笠置が駆け寄る。智紀は自身を抱き締めるように手を回し、青い顔で笠置に尋ねた。

「お、おおお男が……男を、って……こと……?」
「な、何? もう一回言って」
「いえ、その、男がですね……!」
って待て待て。そんなこと話してどーすんだ。
慌てて我に返った。転校初日からヤバい奴だと思われる。俺の残り少ない高校ライフのライフポイントがゼロになる。

見ると、既にさっきの二人はいなくなっていた。

ひえぇ~……いやいや、いいじゃんか、誰が誰を好きになろうと自由だ。俺には関係ない。と自分に言い聞かせ、軽く咳払いする。
「すいません、何でもありません」
「ほんとに? 大丈夫か? 心配な事とかあったら遠慮なく言うんだぞ」
「は……い」
先生の優しい声掛けに頷き、とうとう野郎だらけの教室へ突入した。

「えっと、須賀智紀です。前の学校じゃサッカー部に入ってました。これから一年よろしくお願いします」

適当な自己紹介をすると、控えめに拍手された。ひたすら恥ずかしい時間だ。転校慣れしてるから緊張はしないけど、こういうとき俺は大抵「ども」って言いながらヘコヘコする。
「じゃあ、早速授業始めるぞ」
「えー、いっそ全員自己紹介しませんか! その方が親切でしょ」
「勉強したくないだけだろ! いいから始めるぞ!」
クラスの皆、笑ったりブーブー文句を言ってる。
良かった。朝の喧嘩から不安になってたけど、これなら何だかんだで楽しくやってけそうだ。