「七瀬は……あんまり会ったことないタイプだから。何か気になるんだ。それに、ここに来て初めて話した相手だし」
とりあえず記憶を遡って、思うままに伝える。
「校門とこで転びそうになった時、支えてくれただろ。あれも嬉しかったよ」
「……」
七瀬の瞳は、こちらの心理を暴くような鋭さを持ってる。ちょっと居づらいなー、と思いながら反応を待った。
「……警戒心なさ過ぎ」
彼は距離を縮め、屈んでから自分の前髪を邪魔そうに流した。
何か近い。
下手したら脚が当たりそうだ。あんまりない距離で、またドキドキが増す。
「お前って誰にでも笑顔振り撒いて、尻尾振りそうだよな。そういう奴は総じて無知なんだよ。人の、本当に汚い部分を見たことないから簡単に誰にでも懐くんだ」
「な……っ!!」
何だそれ。
理解はしても納得はできなくて、でもすぐに言葉が出てこなくて。拳だけ強く握り締めた。
「俺なんかに付き纏うのが何よりの証拠だよ。可哀想だから最後に忠告してやる。人を簡単に信じるな。アンタって三秒で騙せそうだから、そのうち学校中の馬鹿どもが群がってくるよ」
言うだけ言って、彼はまた歩き出した。
上手い反論は最後まで思いつかなかったけれど、言葉よりも行動で示すべきだ。
忠告の内容も意味不明だから、追いかけて彼の襟を後ろから掴んだ。
「俺は別にイイ顔しようと思ってるわけじゃないよ!」
「うわっ、ちょっ離せ! 首が締まる!」
七瀬が青ざめて首元を押さえたため、慌てて手を離した。そのせいでさらにバランスを崩してしまう。
反射的に身体が動いた。
「危ないっ!」
気付けば彼の腰に手を回し、抱き込んでいた。
はぁ。……とりあえず、怪我させなくて安心した。
予想よりはるかに体重軽いし、手足も腰も細い。もっと食えやって心の中で思いながら、彼の顔を覗き込む。
「ごめんな。大丈夫?」
「大丈夫……だから、離せ!」
しっかり足を床につけて、彼は俺の手を払い除けた。相変わらずのペースで、もうため息も出ない。
でも、本当に意味分不明だ。
こういう時のこいつ、顔真っ赤なんだもん。